ザ・ダンサーの映画専門家レビュー一覧
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映像演出、映画評論
荻野洋一
恥ずかしながら、ベルエポックを彩ったロイ・フラーという舞踊家を知らなかった。米国の農村でくすぶる娘が才能に目覚め、NY、次いでパリで大成する。ジャンル研究に関心が薄く、カイエ流の個の主体性にとどまる蒙昧なる筆者が、唯一ジャンルのもとに論じたい対象が「芸道もの」である。このジャンルは時として貴種流離譚の形をとるが、本作もそうだ。ヒロインは美貌に恵まれなかったが、発想力と肉体酷使が武器だ。これほどフィジカルな芸道ものは「赤い靴」以来ではないか。
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脚本家
北里宇一郎
まるでランプの中に迷い込んだ蛾が、炎の中でもがきあがいているような舞い。その光と影の映像。ヒロインのロイ・フラー、その女優の挑むようなマスク。さらにあのイサドラ・ダンカンまで登場。これを演じる新人はその血筋からか、眼が鋭く印象的。この二人の女優と映像の色彩に傾きすぎたか、脚本が今ひとつ食い足りない。特にロイに寄り添う没落貴族は、おいしい素材なのにうまく料理されていない。この監督、少し人間(男性?)に対して興味不足の感が。とはいえ見応えはあって。
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映画ライター
中西愛子
全身を使って翻らせるシルクの衣裳に、計算された光の照明を当て、独自の舞台芸術を完成させたダンサー、ロイ・フラー。自分には華がない。その自覚のもと、重労働な仕掛けで顔すら見えないほど自分を消し、逆説的に自分の奏でるムーブメントを舞台の華そのものにし得た彼女は、典型的な努力の人。そんな彼女を翻弄する、美の化身イサドラ・ダンカン(リリー=ローズ・デップ、美の説得力あり)。2種類の女の相克が面白い。ソーコが熱演。フラーの光と影を体当たりで表現している。
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