ネルーダ 大いなる愛の逃亡者の映画専門家レビュー一覧
ネルーダ 大いなる愛の逃亡者
チリの国民的英雄である詩人パブロ・ネルーダの半生に迫るドラマ。1948年、チリの上院議員で共産党員のネルーダの元に、共産党が非合法の扱いを受けるとの報告が届く。上院議会で政府を非難したネルーダは大統領から弾劾され、警察から追われる身となる。監督は、「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」のパブロ・ラライン。出演は、「NO」のルイス・ニェッコ、「ノー・エスケープ 自由への国境」のガエル・ガルシア・ベルナル。第69回カンヌ国際映画祭監督週間出品作品、第74回ゴールデン・グローブ賞映画部門外国語映画賞ノミネート。
-
映像演出、映画評論
荻野洋一
チリ近現代史を本作「ネルーダ」を嚆矢として、ドキュ「チリの闘い」、ララインの前々作「NO」と並べ直すと、苛烈にしてハッピーエンドの3部作が浮かび上がる。ファシズム勢力とコミュニストの激闘のサーガである。「イル・ポスティーノ」で名優Ph・ノワレが演じたチリ詩人ネルーダを、本作ではルイス・ニェッコが妖艶に演じるが、もっと出色なのはG・G・ベルナル演じる捜査官だ。彼はネルーダ追跡を指揮しつつ自ら追いこまれる。追跡ゲームのこの倒錯こそ本作の面目躍如である。傑作。
-
脚本家
北里宇一郎
1948年のチリが舞台。一瞬、政治劇かと思う。しかし民衆のカリスマ議員を主役にして、文学の匂いがたちのぼった。逃亡者を追う警察官。その視点でネルーダ像が語られていく。が、彼のモノローグもまたネルーダの思考の産物なのだ。この二重構造に小説の面白さが滲み出て。ネルーダも映画の作り手たちも、政治や革命よりも文学の力を信じ、愛している。だから彼は自分を迫害する側の人間に想像を巡らしたのだろう。スパッスパッと切り取っていく、ナイフの様な画面構成の鋭さも快く。
-
映画ライター
中西愛子
1971年にノーベル文学賞を受賞した、チリの英雄ネルーダ。共産主義の政治家にして、詩人であり、芸術家であった。彼と彼を追う警官の関係がタペストリーのように織り成されていく。かなり詳しく背景を知らないと内容はわかりにくい。それゆえに、この作品では実験的とも思える斬新な編集と語り口、ふいに映り込む街並みや自然の景色、光の注ぐ映像美に目を凝らしてみたい。特に、ラストの雪のシーンは、ガエル演じる警官の精神を奥深く伝えている。ネルーダ像はとらえづらい。
1 -
3件表示/全3件