クジラの島の忘れものの映画専門家レビュー一覧
クジラの島の忘れもの
日本人女性とベトナム人青年が国境を越えて愛を貫く姿を描くラブストーリー。2007年秋。愛美は東京から沖縄の叔母のもとへ移り住み、旅行代理店で働き始める。悲しい過去を持つ愛美は、仕事先で出会ったベトナム人青年コアの純朴な優しさに惹かれていく。出演は、「谷崎潤一郎原案/TANIZAKI TRIBUTE『悪魔』」の大野いと、「レディ・プレイヤー1」の森崎ウィン。監督は、本作が長編映画初監督となる牧野裕二。
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映画評論家
北川れい子
日本とベトナムの国交樹立45周年記念映画というふれ込みに加え、沖縄県も製作支援をしている作品に、ダメ出しを言うのはいささか気が引けるが、こんなにスカスカの脚本と雑な演出のエーガもちょっと珍しい。場面はあってもドラマがなく、人物たちの情報はみな自己弁解の台詞だけ。阪神・淡路大震災(1995年)の喪失感から抜け出せないでいる大野いとが、沖縄の旅行会社で働くというのだが、出勤初日の場面から観る気をソーシツ、ベトナム青年の森崎ウィンも口先だけのキレイゴト。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
観ながら心のなかで劇中のベトナムの青年に一生懸命呼びかけた。いいんだ、全然彼女にかまわなくていい、そのことできみの有望な前途を狭め、スローダウンさせなくていい、そんなに全方位的にいいひとの佇まいをしなくてもいい、たまたまそれぞれの国の発展のタイミングによっていまはきみを指導する立場にある日本人社長の上から目線に対してもへりくだらなくていい、この映画自体が、自分たちは愛され尊ばれるのだという旧世代の日本人の夢、妄想みたいなものなのだから、と。
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映画評論家
松崎健夫
現代において“相手に触れることさえ躊躇う大人の純愛”をいかに成立させるのか? というのが本作の命題。ヴェトナム人研修生の祖国にある風習や、彼とヒロインが共に沖縄の地において異邦人であるという設定は、“純愛”を成立させるために機能している。さらに、2007年という過去を舞台にすることで、“神戸”というキーワードも活かされている。天災によって想い出の品などの形ある“生きた証し”が存在しない時、相手を忘れないことの大切さをこの映画は再考させるからだ。
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