北の桜守の映画専門家レビュー一覧

北の桜守

「北の零年」「北のカナリアたち」に続く吉永小百合主演の“北の三部作”最終章。息子二人を連れて戦争から逃れ網走で過酷な状況の中生き抜いたてつ。1971年、次男の修二郎は戦禍によるPTSDに悩む母と思い出の地を辿るうちに、禁断の記憶に行きつく。監督は「おくりびと」「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」の滝田洋二郎。母てつを演じる吉永小百合や成人した修二郎役の堺雅人ら俳優陣とともに、貧しさや飢えに苦しみながら極寒の北海道で懸命に生きる母子のドラマを撮る。また、てつの心象風景を劇団ナイロン100℃の主宰ケラリーノ・サンドロヴィッチが演劇的に表現している。
  • 評論家

    上野昻志

    大戦末期に、ソ連軍の侵攻を逃れて、樺太から子どもを連れて日本に帰還し、その時の記憶を抱えたまま戦後を生きてきた女性を、現在の側から照射するという物語は、よくわかるし、吉永小百合は頑張っていると思う。ただ、過去を捨てて、一人前の男になることを目指してきた次男に扮した堺雅人の演技がなぁ……。目許の変化だけでは、それまで内に抱えてきたはずの苦闘が感じられないのだよ。北海道の風景はいいけどね。荒れる海や、鄙びた駅。それに二人が登る太田神社の石段など。

  • 映画評論家

    上島春彦

    堺雅人をあからさまにイヤなヤツに設定したのが効いている。どうしてこういう人になったのか、という部分とそこからの脱却とがごっちゃに描かれて飽きさせない。母親との二人旅の観光気分も悪くない。正直それをきっちりやってくれれば十分満足したはずだが、何を思ったかしつこく舞台劇が現れる。ケラ演出が大真面目に群舞を振りつけていてどう対処したらいいか分からず。ある事件のショックで精神の均衡を失った吉永の設定もいいのに、舞台劇に時間を取られ過ぎ勿体ない仕上がり。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    吉永の夫が阿部寛で、堺雅人は息子役のはずが恋人同士みたいにイチャつくのを眺めながら、話題の惹句「東映じゃけぇ、何をしてもええんじゃ」は本作にこそ相応しいのではないかと思えてくる。滝田に加えて劇中劇の舞台演出にケラを招聘しても、小百合映画の壁は越えられず。痴呆を描くのは良いとしても、結局寓話に収拾されてしまい、老いを演じる絶妙な年齢を迎えているだけに釈然とせず。戦後は存在が消されていた息子の一人についてはミステリ的伏線を張っておいて欲しかった。

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