孤狼の血の映画専門家レビュー一覧
孤狼の血
第69回日本推理作家協会賞を受賞した柚月裕子の警察小説を「彼女がその名を知らない鳥たち」の白石和彌が映画化。暴力団対策法成立直前の昭和63年。広島の呉原で暴力団関連企業の社員が失踪。ベテラン刑事・大上と新人の日岡は事件解決に奔走するが……。出演者には、「三度目の殺人」の役所広司、「不能犯」の松坂桃李、「天空の蜂」の江口洋介、「海よりもまだ深く」の真木よう子ら豪華キャストが顔を揃えている。
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映画評論家
北川れい子
時に太々しく、時に卑しくズル賢く、しかも瞬時に愛嬌と暴力を使い分ける刑事・役所広司の凄さ、素晴らしさ。役所に絡む俳優たちが煽られるようにしてテンションの高い演技をしているのも緊張感を加速させる。当然、映像も殺気と重量感があり、平成版「仁義なき戦い」、役所広司と白石監督のコンビ以外には考えられないパワーがある。とはいえ冗漫なシーンもいくつかあるのだが、暴力場面にブレーキをかけない白石演出の凄さはやっぱり格別で、悲壮、かつ痛快、シビレるほど面白い。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
いい映画だ! 東映実録路線の血肉に、「NYPD15分署」やさらにそのルーツであるO・ウェルズ「黒い罠」のような善悪混沌警察映画の骨格も窺え、充実。惚れぼれする。驚くべきは原作者柚月裕子氏がわりと近年に「仁義なき戦い」を観てインスパイアされてこの原作を書いたことでこれは中上健次に関して手をこまねいた男たちをジョージ朝倉が思いがけないルートで抜きさった漫画「溺れるナイフ」にも似る。だが本作製作者男性陣はその遅れを挽回した。男女とも、全人類必見の快作。
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映画評論家
松崎健夫
映画冒頭、ベテラン刑事・役所広司から度胸試しを強いられる新人刑事・松坂桃李。彼はコーヒーを片手に、牛乳を飲みながらパチンコ台に鎮座する暴力団構成員・勝矢にわざとぶつかってゆく。その刹那、コーヒーと牛乳でびしょ濡れになった勝矢は激怒するが、混ざり合ったものが“コーヒー牛乳”になるというユーモア。しかし重要なのは、「牛乳」=「白」と「コーヒー」=「黒」を混ぜることで「灰色」となる点。奇しくもそれは、本作の描く“灰色の正義”の伏線となっているのである。
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