台湾萬歳の映画専門家レビュー一覧
台湾萬歳
台湾の日本語世代を取材した「台湾人生」「台湾アイデンティティー」に続く酒井充子のドキュメンタリーシリーズ台湾三部作最終章。台湾の原風景が色濃く残る台東縣で、元カジキ漁・漁師や、伝統的な狩りを続けるブヌン族など、“変わらない台湾”の姿を追う。撮影は、「風の波紋」の松根広隆。
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評論家
上野昻志
酒井充子監督の「台湾三部作」最終章は、太平洋に面した台湾南東部の台東縣が舞台。その漁港に、日本語を話す元船長を訪ねるところから映画は始まる。酒井をまず動かすのは、台湾の日本語世代の存在だ。それは51年に及ぶ日本統治という歴史を負った世代だからだ。だが、ここで輝くのは、さしみを食べ、バナナを収穫する元船長をはじめ、日本人が持ち込んだ「突きん棒漁」を今も続ける漁民、山で狩りをするブヌン族の青年など、昔に変わらぬ地に足をつけた台湾の人々の暮らしである。
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映画評論家
上島春彦
相米の「魚影の群れ」に使ったらさぞ迫力が出ただろうと思うようなカジキ漁船がいい。漁法は違うと見えたが、実はこれも日本から伝わった伝統のものだそうだ。見応え大あり。海の上だけでも構成できただろうが、引退した漁師からじわじわと話題が揺れて変化する。三部作最終章となった本作では、大都会台北じゃなく他民族(というかこの人達が本来の台湾人)が多く住む台東に焦点を当てている。森に入る猟のための儀式とかも充実してさすが。ディスコ調「また会う日まで」に思わず微苦笑。
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映画評論家
モルモット吉田
無知と偏見が終始垂れ流されるネットを眺めた後に観ると、この静かで一見限定された情報しか提示されない本作の画面に映るモノが実は多くの情報を持ち、饒舌に語りかけてくるのを実感する。焼けた顔に深く刻まれた皺が魅力的な彼らの日本語に字幕を付けないのも良い。観客は耳をすまし、不鮮明な言葉を聞き取ろうとすることで相手の立場を慮り、対話の準備が整う。日本統治時代の名残を無邪気に取り出して肯定的に捉えたり、過剰なまでに否定的に描こうともしない視点が好ましい。
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