あゝ、荒野 後篇の映画専門家レビュー一覧

あゝ、荒野 後篇

寺山修司が唯一残した長編小説を菅田将暉とヤン・イクチュンのダブル主演で映画化した二部作後編。共に内なる思いを秘めてボクシングを始めた新次と健二。やがて、試合を重ねるにつれて、名を挙げてゆく新次。同時に、2人の関係も徐々に変わってゆく……。共演は「ひとまずすすめ」の木下あかり、「探検隊の栄光」のユースケ・サンタマリア。監督は「二重生活」の岸善幸。2017年第91回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞(菅田将暉)、助演男優賞(ヤン・イクチュン)。
  • 評論家

    上野昻志

    前後篇は仕方がないとしても、それぞれが長すぎる。とくに前篇は、長い割に記憶に残る場面が希薄だった。それは、現在の新宿の外景を「荒野」に転じるだけの力がなかったからでもある。それでも、菅田将暉とヤン・イクチュンの二人をはじめ、原作と対照的にスタイルの良い芳子役の木下あかり、片目のユースケ・サンタマリアなどが頑張っていたので見られるが、場面としての力は弱かった。その点、後篇は、ボクシングに集中しいく菅田とヤンの肉体が、画面に躍動感を与えていた。

  • 映画評論家

    上島春彦

    とっちらかった印象の前篇から密度がぎゅっと濃くなる後篇へ。続きなのに唐突な始まり方に思える演出。新宿とバリカン、二人の運命が意志的に離れてまたつながる経緯をあくまでリング上で敵として戦うため、としたのが成功の要因だ。ファイト場面も幻想的に処理される部分以外は本気で殴り合っており、価値が高い。ただ私には新宿はともかくバリカンが闘う理由をあまり理解できていない感じもする。結局、暴力親父との葛藤という前篇からの因縁はどういうことになったのか、不明だ。

  • 映画評論家

    モルモット吉田

    都心にテーマパーク的な葬儀場を作る計画が持ち上がり、街頭には防衛の幟が立ち、社会奉仕や反対デモが渦巻く2022年は、冗談みたいなことを平気で権力者が口にする時代へ急速に傾いた今、妙にリアルに見える。後篇の中心となるボクシングシーンは、俳優がある程度トレーニングして演じるわけだが、その限界をどう打ち破るか、俳優だから可能な躍動美を、カメラ、編集の三位一体で組み立てた迫力が良い。配信されている完全版も観た上で、これを2時間にできないか再考したい。

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