ファントム・スレッドの映画専門家レビュー一覧
ファントム・スレッド
「リンカーン」などで3度のアカデミー賞主演男優賞に輝いたダニエル・デイ・=ルイス主演のラブストーリー。1950年代のロンドン。ファッションの中心的存在として脚光を浴びるオートクチュールの仕立屋レイノルズは、若いウェイトレス、アルマと出会う。監督・脚本は、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」のポール・トーマス・アンダーソン。出演は、「マルクス・エンゲルス」のヴィッキー・クリープス、「ターナー、光に愛を求めて」のレスリー・マンヴィル。音楽は、「インヒアレント・ヴァイス」のジョニー・グリーンウッド。第75回ゴールデングローブ賞2部門ノミネート。第90回アカデミー賞で作品賞を含む6部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞。
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翻訳家
篠儀直子
主人公が屋敷のなかで無力化される映画は「レベッカ」とか「ガス燈」とかあるけれど、ここで囚われの身になるのは男性のほう。キャメラは意思を持っているかのような動きで事態を追い、非合理極まりない心理を生々しく映し出す。違う言い方をすると、たったいま目の前で演技が生成しているさまを目撃しているかのような興奮がある。オートクチュールの手仕事の細やかさを愛おしむかのように、細部をクロースアップした画面が素晴らしく、クラシックをちりばめたサントラの響きも新鮮。
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映画監督
内藤誠
ダニエル・デイ=ルイスが俳優をやめる前に演じた衣裳アーチストは自己中心の完璧主義者で、こういう人間性は思い当たるところもあり、不安をかきたてる。彼の仕事に異常な関心をもち、結婚もしないで見守る姉のレスリー・マンヴィルも優雅でリアルだ。だが、このゴシックロマン風な映画で怖いのは、あどけない顔で登場し、時間の経過とともに男の性格まで変えていくヴィッキー・クリープスだ。1950年代の英国の上流階級のファッションとサスペンスを同時に楽しめた。
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ライター
平田裕介
最初だけ優しくて仕事ばかりの男、それに不満を募らせてキレる女。いつの時代も変わらぬ男女の姿というか、ありがちな男と女の業を描いた話ではある。ただ、その度合いがそれぞれありえないほど病的であり、彼らが身を置くのがラグジュアリーにも程がある50年代オートクチュールの世界であり、監督が参考を公言する「レベッカ」的な不穏ムードが渦を巻くことから、なんだかんだと引き込まれてしまう仕掛け。美人ではないようで美人な容姿のヒロイン、V・クリープスも悪くない。
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