多十郎殉愛記の映画専門家レビュー一覧

多十郎殉愛記

巨匠・中島貞夫監督が「極道の妻たち 決着」以来、20年ぶりに撮り上げた長編劇映画。幕末。上洛した長州脱藩浪人・清川多十郎は好意を寄せるおとよの想いにも気付かない。そんななか、京都見廻組が新選組に先んじて手柄を立てようと、多十郎捕縛に動き出す。出演は「横道世之介」の高良健吾、「日日是好日」の多部未華子、「帝一の國」の木村了、TV『暗闇仕留人』の三島ゆり子、TV『新選組血風録』の栗塚旭、「太秦ライムライト」の山本千尋、「アンフェア」シリーズの寺島進。「パンク侍、斬られて候」の永瀬正敏が特別出演。脚本は、中島貞夫と「時代劇は死なず ちゃんばら美学考」でラインプロデューサーを務めた谷慶子。撮影を「極道の妻たち Neo」の朝倉義人、美術を「桜田門外ノ変」の松宮敏之、照明を「太秦ライムライト」の山中秋男、音楽を「三屋清左衛門残日録」の栗山和樹が担当。中島監督の教え子である「私の男」の熊切和嘉が監督補佐を務める。2018年10月14日、京都国際映画祭2018にてワールドプレミア上映。
  • 評論家

    上野昻志

    多十郎が住まい、彼に心惹かれるおとよが、なにくれとなく世話を焼く住居と、その周囲の路地を捉えた画面に感服した。むろん、路地も家もセットに違いないが、それがよく出来ているという以上に、それを映すショットが、いかにもうらぶれた街の一角という空気を醸し出しているのだ。高良健吾演じる多十郎は、当然ながら、阪妻のような渋みはないが、舞台となる場がそれを補っている。そして、次第に激しさを増していく剣劇、そこでも多十郎が走る空間が生きている。さすが手練れの技。

  • 映画評論家

    上島春彦

    中島監督の優れたちゃんばら記録映画中の短篇時代劇を見た時から、次なる展開を期待していただけに、堂々たる長篇として実現したのは素直に嬉しい。しかも配役も豪華。高良扮する剣の達人が、幕末の御時世、腕は立つのに人を斬る気がないという設定も効いている。ただ問題は弟を護るための殺陣、というコンセプトが何か煮え切らないこと。狂暴さに欠けるというか。せめて騒動の発端になった二名のザコ町方役人はどうにか懲らしめてほしかった。童歌が「関の弥多ッぺ」みたいで良い。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    権力にも大衆にも背を向けた孤高の若者を主人公にしていた70年代の中島貞夫が現代に甦ったかの如く、高良と多部がもたらす若々しさが全篇を鮮やかに彩る。マキノ譲りの庶民描写と絶妙なショットの繋ぎを堪能し、時代劇で見慣れたオープンセットの長屋までも見事な装飾と空間を活かした演出で輝かせることに驚く。かつての中島映画の鉄砲玉たちは愛する女には目もくれずに自滅していったが、もはやそんな気取りは不要とばかりに殉(純)愛を高らかに謳い上げる終盤にも深く感動。

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