バルバラ セーヌの黒いバラの映画専門家レビュー一覧
バルバラ セーヌの黒いバラ
1950年代から活躍したフランスの伝説的歌手バルバラを主人公にした映画の製作に情熱を注ぐ主演女優と映画監督の姿を描いたドラマ。バルバラを演じる女優ブリジットと監督のイヴは、それぞれのやり方で謎に満ちたバルバラの生涯に迫っていくが……。主演のジャンヌ・バリバールは、本作でセザール賞主演女優賞を受賞。「ダゲレオタイプの女」のマチュー・アマルリックが監督・脚本・出演の3役を兼任している。
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ライター
石村加奈
来日時の清潔な笑顔が素敵だった、本作の主演女優ジャンヌ・バリバール。作中で演じたバルバラに憑かれて、次第に映画のなかと現実との境界線が曖昧になってゆく女優ブリジットのはかない姿は、他人の人生を背負う俳優の危うさを色っぽく、斬新に魅せるが、例えば伝説の再現に徹底した伝記ドラマ「ボヘミアン・ラプソディ」と比べると、歌姫バルバラひいては彼女の歌の魅力に迫るという観点からは、蛇足に映ってしまう。監督、脚本、監督役(!)で出演したアマルリックの存在も然り。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
映画なるものの美しき矛盾――いにしえに曰く「ローカルに留まり、普遍を得る」「形式への厳格さがドキュメンタリーに劣らぬ自由を謳歌する」――に、本作は次の教えを追加する。「不躾さが時に最大の表敬となる」。伝記を解体する。人生を、歌を、芸術を解体する。アマルリックは貪欲にバルバラの伝説を、女優バリバールの存在を解体し、自身をも解体する。恭しい表敬は要らない。彼は耳を澄ませて故バルバラに訊ね続ける。こんな偏屈な愛の表明を貴女は笑ってくれますねと。
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脚本家
北里宇一郎
バルバラの作曲家・歌手としての魅力が描かれる――というより、その人間性を模索する映画で。ピアノを弾く彼女。そこからパンすると撮影クルーが映り、女優が素に戻るという、虚実皮膜のタッチ。最初はこの趣向が面白く、キャメラの見事さもあって、ちと酔わされる。だけどバルバラとの格闘がしだいに混迷。その描写もひとりよがりの感となって。芸術家、そこにあこがれ、裏表さらけだした監督・自演のこの男優。そのナルシズムが少し表に出すぎたような気も。野心作。けど息苦しい。
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