あなたはまだ帰ってこないの映画専門家レビュー一覧
あなたはまだ帰ってこない
1944年、ナチス占領下のパリ。若く優秀な作家マルグリットは、夫とともにレジスタンス運動のメンバーとして活動していた。ある日、夫がゲシュタポに逮捕される。マルグリットは夫を取り戻すために、ゲシュタポの手先であるラビエと危うい関係を築き、情報を得る。愛する夫の長く耐えがたい不在はパリの解放後も続き、心も体もぼろぼろになりながら夫の帰りを待つマルグリットだったが…。近代フランスを代表する小説家、マルグリット・デュラスの若き日の愛と苦悩を綴った原作『苦悩』を基にした壮大な愛の物語。
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批評家、映像作家
金子遊
マルグリット・デュラスの原作を映画化すると、どうしてこの人のカラーで染まるのか。占領下でレジスタンスをしていた女が、逮捕された夫の情報を聞きだすため、ゲシュタポの手先の男と逢瀬を重ねる物語が何ともデュラス的。それ以上に、主人公のマルグリットをフレーム内におさめつつ、彼女の意識の流れのようなモノローグを重ねる映像と音声の構造がまたデュラス的。「雨のしのび逢い」や「愛人 ラマン」、リティ・パンが撮った「太平洋の防波堤」を見直して本作と比較してみたい。
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映画評論家
きさらぎ尚
ゲシュタポに突然連れ去られた夫の安否を気遣いながら帰りを待つ女性。映画と縁浅からぬM・デュラス原作に加え、夫の不在というシチュエイションの共通点で、彼女が脚本を書いた「かくも長き不在」を思い出してしまった。原作者とヒロインとの距離の近さを物語るかのように、待つ苦悩はもちろん、(愛人を)愛する苦悩に(夫を)愛せなくなってしまっている苦悩を、陰影を持って絡み合わせた演出が優雅。欲望に正直で奔放な女性をエレガントさを損なわずに演じたティエリー◯。
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映画系文筆業
奈々村久生
結論から言うと、この小説の映画化はやはり困難だった。待ち続ける女の心理描写を正攻法で撮ろうとすれば映像表現はどうしても抽象的にならざるを得ない。特に後半、ゲシュタポの手先であるラビエとの接触が絶えてからはその色が濃くなり、彼が本作の生命線だったと言ってもいい。そのラビエを演じたブノワ・マジメル、いつの間にやらすっかり恰幅がよくなり……時の流れを感じるとともに、別人になったかのような容貌の変化を遂げても、役を魅力的に見せる俳優としての力量に脱帽。
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