女王陛下のお気に入りの映画専門家レビュー一覧
女王陛下のお気に入り
第75回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞・女優賞受賞の歴史ドラマ。18世紀初頭、フランスと戦争中のイングランドで虚弱な女王アンを幼馴染のレディ・サラが操っていた。そこにサラの従妹で没落したアビゲイルが召使いとして参内し、サラと女王を惹きつける。監督は、「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」のヨルゴス・ランティモス。出演は、「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーン、「否定と肯定」のレイチェル・ワイズ、「ロブスター」のオリヴィア・コールマン。
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翻訳家
篠儀直子
18世紀初頭のイングランドの宮廷を粉飾なしに映画化したら、現代人の目から見て当然グロテスクなものになるわけで、ましてや監督がランティモスであれば、人物の感情を拡大してそっち方向に振るのは観る前から明らか。実際、意図の染み渡った美術設計、広角レンズで空間の歪みを強調しつつのクイックパン、過剰で複雑なオーバーラップ等が、独自の世界を匂い立たせる。だが真に驚くべきは、展開の速さと人物の運動により、作家性の強いこの作品が、娯楽映画としても成立していること。
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映画監督
内藤誠
物語を左右するスチュアート朝の最後の君主、アン女王をオリヴィア・コールマンがすさまじい迫力で演じる。権力の頂点に立ちながら、痛風に悩む虚弱体質で、好き嫌いが激しい。内外ともに大変な時代なのに、政治に無知で自己中心主義。そこに、レディ・サラ(レイチェル・ワイズ演でチャーチルの祖先)とアビゲイル(エマ・ストーン演)というやり手の女官が登場し、3人の関係が宮廷絵巻の中で酷薄に描かれる。オーストラリアの脚本家とギリシャの監督だからこそできた物語と演出かも。
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ライター
平田裕介
たとえ広大な宮廷が舞台であろうとも、いいようのない閉塞感と不穏なユーモアを醸すのはヨルゴス・ランティモスならでは。撮影のスタイルや構図、章立てを用いた語り口は「バリー・リンドン」を意識しまくっているが、これがまた彼の持ち味とマッチしていて悪くない。百合炸裂のシーソー・ゲームに固唾を飲む一方で、歴史もなにもかも動かすのは女だと痛感。エルトン・ジョンの『スカイライン・ピジョン』が流れるが、歌詞もチェンバロの調べも内容にドンピシャでお見事!
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