峠 最後のサムライの映画専門家レビュー一覧

峠 最後のサムライ

司馬遼太郎のベストセラー小説『峠』の初映画化。慶応3年、大政奉還により徳川幕府は終焉を迎え、諸藩は東軍と西軍に二分していく。戊辰戦争が勃発すると、越後長岡藩の家老・河井継之助は民の暮らしを守るため、いずれにも属さない武装中立を目指すが……。監督・脚本は、「蜩ノ記」の小泉堯史。出演は、「オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁」の役所広司、「ラストレター」の松たか子。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    時代劇の文化を支えてきた基盤が失われつつあることが危惧されているうちに、実写の商業日本映画のマーケットそのものの基盤が失われつつある昨今。現代の日本映画界でおよそ考え得る最良のキャスト陣を揃え、現代的解釈のようなノイズを周到に排した端正な佇まいの本作からは、このジャンルの良き観客ではない自分のような人間にもその尊さが素直に伝わってくる。スペクタクル的な見どころという点では物足りなさも残るが、それはないものねだりということなのだろう。

  • 映画評論家

    北川れい子

    筆を使って楷書、つまり、崩したり乱れたりがまったくない丁寧な楷書で書かれたような、正攻法の時代劇である。戦闘場面でもカメラをドシッと構え、リアリズム的な粗っぽい演出はしない。サムライとしての信念を通しつつ、何としても戦いを避けようとする河井継之助を際立たせるための演出として、小泉監督、さすがである。演じる役所広司の常にまっすぐ前を見ている演技も説得力がある。ブレずに生きた日本人のお手本として興味深いが、結局、時代の波に飲み込まれるのが、厳しい。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    どのタイミングで封切られても天皇制保持と防衛費増大を後押しするような主題や語り口ではあるが、いまだとさらにロシアのウクライナ侵攻までオーバーラップしてきてきな臭い。そりゃあサムライはぱっと見カッコイイだろうが当時サムライであるか否かは生まれで決まっていたというだけのものであり、もはやあまり憧れるとか自己同一化するのは気持ち悪い。キャリアある役者陣のいい存在感と、文化らしきものが写っているなというところばかり見ていた。松たか子の踊りぶりとか。

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