タロウのバカの映画専門家レビュー一覧
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ライター
須永貴子
日本社会が抱える数多の問題を、劇映画だからできる方法で告発する、見るなら今でなくてはいけない作品。社会から見捨てられた3人の若者が主人公という点で、同監督の「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」と重なるが、社会規範という枠の外や、生きることに向かう矢印が、より大胆に、力強く示されている。技術面は経験により洗練されても、映画作家として丸まらず、より先鋭化する気骨。タロウを演じたYOSHIの、動物のように予測不可能な動きをつい目で追ってしまう。
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脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授
山田耕大
はみ出した若者たちの刹那的な生き方を追っている。タロウがシングルマザーの子だけに、四年前の川崎中学生殺人事件に想を得たのかと思ったが、そうではなく、「ゲルマニウムの夜」(05)以前の90年代にデビュー作として書いていた脚本を映画にしたのだという。時代を先取りしたかのようだ。あの被害者の川崎の少年が銃を手にしていたら、どうなっていただろうと思わせた。薄っぺらで嘘っぽくて恥ずかしくなるような若者映画が蔓延する中、掃き溜めの少年たちが鶴のように光っている。
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映画評論家
吉田広明
社会から落ちこぼれ、「意味がない」とされた少年たちが、銃=力を手にしてしまったら何が起こるのか。デビュー作用のシナリオのシンプルな初期設定に、障害者虐待・搾取やネグレクトなど、弱者に一層厳しくなった現在への怒りを載せてアップデート。ただ、その接合は性急な気がしなくもない。それぞれの人物の、どこに行くか分からない不安定さ、揺れ幅が、ただの社会派ドラマに回収させず、タロウが公園のおばさんに「母」を見て話しかけ、豹変してゆく長回しもスリリング。
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