葬式の名人の映画専門家レビュー一覧
葬式の名人
大阪府茨木市市制70 周年記念事業の一環として茨木市が全面協力、川端康成の短編小説をモチーフにした群像コメディ。息子と二人で暮らす雪子のもとに、高校時代の同級生の訃報が届く。卒業から10年の時を経て集まった同級生たちは、奇想天外な通夜を体験する。映画評論家で「インターミッション」など監督業にも進出する樋口尚文がメガホンを取った。また、川端康成の母校・大阪府立茨木高校の卒業生で、劇団とっても便利の脚本を担当、日本チャップリン協会会長を務める大野裕之が脚本を手がけた。『十六歳の日記』『師の棺を肩に』『少年』『バッタと鈴虫』『葬式の名人』『片腕』などの川端康成の短編小説を下地にしている。シングルマザーの渡辺雪子を「旅のおわり世界のはじまり」の前田敦子が、雪子共に奇想天外な通夜に翻弄される茨木高校の野球部顧問・豊川大輔を「多十郎殉愛記」の高良健吾が演じる。2019年8月16日茨木市先行ロードショー。
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映画評論家
川口敦子
ヒロインの背中をみつめる眼差しで幕を上げる一篇はいったいこれはだれの目とぬかりなくそこで思わせて、そういうささやかだけど大事な細部に映画の命は宿るのだといったことを改めてしっくりと思わせる。黒澤の映画みたいなどしゃぶりの雨。アルトマン映画みたいに同時に喋る人々。昨今あまり出会えない映画らしさの瞬間に包まれる。その幸せがもう少し、物語と融け合ってくれればなあと、“同葬会”のもたつきを前に少し呆然とした。坊さんっぷりが板につき過ぎの栗塚旭、声も素敵。
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編集者、ライター
佐野亨
撮影に中堀正夫、照明アドバイザーに牛場賢二を迎え、いたるところに実相寺昭雄へのオマージュをちりばめている。題材とあいまって、さながら『波の盆』のよう(上野耕路の音楽もどことなく武満徹っぽい)。だが、それ以上の飛躍や昂揚があるかと問われれば、どうにも目配せに終始してしまった感は拭えない。あえて舞台調のダイアローグしかり、大林宣彦作品を思わせる地域性や歴史への言及しかり。そんななかで前田敦子が一人、卓越した個性と存在感で映画を引っ張っている。
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詩人、映画監督
福間健二
樋口監督と協力者たちが楽しく作っているのが想像できる。その楽しさが作品全体のぎこちなさを上まわる瞬間が訪れただろうか。映画、そんなに簡単じゃないと思わされた。いや、教えられたと言うべきか。巧い下手じゃなく、作品を構成する要素の有機的な連絡への、もっと端的には画の決まり方へのこだわりが感じられない。話の進行としては、川端康成の初期から拾った「体験」を、川端的な味を抜いて前田敦子に担わせているが、事実の隠し方と現れ方に確たる理由が見えない。
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