ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえの映画専門家レビュー一覧
ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ
1933~45年にナチスにより弾圧・略奪された美術品をめぐるドキュメンタリー。ピカソやゴッホなどの名作に退廃芸術の烙印を押す一方で古典主義的な作品を擁護し、ユダヤ人富裕層から美術品を没収した背景や、略奪された美術品が辿った闇の美術史に迫る。監督は、ヴェネチア・ビエンナーレやイタリア国立21世紀美術館などのドキュメンタリーを手がけたクラウディオ・ポリ。「修道士は沈黙する」などに出演した俳優トニ・セルヴィッロが案内を務める。『怖い絵』シリーズを著した作家・ドイツ文学者の中野京子が字幕監修を担当。
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批評家、映像作家
金子遊
表題の派手さはないものの、知的な好奇心を刺激する美術史ドキュメンタリー。ヒトラーの下でユダヤ人から略奪し、ルーベンスなどの名画を収集した国家元帥のゲーリング。200人以上の画商や美術史家が協力し、文化財を略奪したローゼンベルク特捜隊。ナチスドイツ時代に行方不明になった名画が、戦後数十年をかけて発見され返還された経緯を丁寧に追っている。そこから見えてくるのは、ナチスが企画した「退廃芸術展」と「大ドイツ美術展」に美術品を二分した思想的な背景である。
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映画評論家
きさらぎ尚
ヒトラーが欧州各地で絵画などの芸術品を略奪したことは誰もが知っている。これは副題が示す通り、美術史家や研究者、略奪された作品の相続人らの証言で構成。今さらながらその数の多さ、略奪者たちの手口等々に驚愕。が、最も驚いた(=収穫)のは、この作品で初めて知った「グルリット事件」。法的には亡き人グルリットが略奪品1500点を自宅に隠し、あろうことか、これを切り売りしながら裕福に暮らしていたとは!? まるで巧妙精緻なミステリーの謎解きを見ているようだ。
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映画系文筆業
奈々村久生
本作における芸術品はいわばもの言わぬ被害者だ。一方でそれらは、持つ人間の思惑によっては、強力な武器にもなり得る。ナチス時代に美術館から押収された絵が見つかったとき、バイエルン州は美術館ではなくナチスに返そうとしたという。戦後随所でナチスの罪を償おうとしてきたドイツも、芸術の扱いには慣れていないというセリフが刺さる。芸術品に罪はなくとも、それを生み出したり所有する者の人間性は問われる。その意味で芸術品は銃と同義であり、結局は人間の物語なのである。
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