閉鎖病棟 それぞれの朝の映画専門家レビュー一覧
閉鎖病棟 それぞれの朝
現役精神科医でもある帚木蓬生による第8回山本周五郎賞受賞作『閉鎖病棟』を、「エヴェレスト 神々の山嶺」の平山秀幸監督が映画化した人間ドラマ。過去を背負いながらも明るく生きようとする患者たちがいる精神科病院で殺人事件が発生。その理由とは……。刑執行が失敗し生きながらえた元死刑囚の梶木秀丸を「おとうと」の笑福亭鶴瓶が、幻聴に苦しむ塚本中弥を「パンク侍、斬られて候」の綾野剛が、DVを受ける女子高生・島崎由紀を「さよならくちびる」の小松菜奈が演じる。
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映画評論家
川口敦子
監督は「グラン・トリノ」を思っていたとプレスにあり、だからこそ十字架を背負った老人の覚悟と行動が原作以上に映画の柱となったのかと納得。イーストウッド映画の死の淵を覗きこみつつの痛快さは確信犯的に回避する選択にもまた肯いた。ただ小説にある時の幅、各人物の過去、それを映画で単なる回想場面でなく伝える試み、時の省略法を支える意欲が実り切れずにいて惜しい。端正な語り口、奇を衒わない撮影、編集。ああ映画! と思える映画を前につい欲を言ってしまうのだが――。
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編集者、ライター
佐野亨
前半から中盤にかけては、抑制と誇張を心得た語り口で一人ひとりの物語に没入することができた。が、小松菜奈の失踪から裁判劇へと至る後半は、明らかに描くべき重要な要素を欠いている。近作では「宮本から君へ」がそのことに言及していたが、性暴力被害の傷をどう癒すかという問題を加害者の処遇に直結させるのは如何なものか。しかもここでは加害者をめぐる?末は描かれても、被害者が傷と向き合う過程は描かれない。結果、それぞれの自立へ到るドラマも焦点がぼけてしまった。
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詩人、映画監督
福間健二
精神科病院の患者たちの世界。医師でもある作家の原作。書くのも簡単じゃなかっただろうが、役者が「病気」を演じる映画はもっと大変。半端な倫理や美意識では扱えない題材への、平山監督の執念と覚悟に敬意を抱く。どんな意味での面白さよりも、いわばこの世の底辺での人間の条件を確認することが、すべてのシーンの前提だ。映画だけがおこせる奇跡へと持っていくには、もう何歩かと思うが、それを派手にやらない矜持ありとも感じた。鶴瓶と綾野剛、これまでにない顔を見せた。
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