ハウス・ジャック・ビルトの映画専門家レビュー一覧
ハウス・ジャック・ビルト
第71回カンヌ国際映画祭に出品され、過激な描写で物議を醸したラース・フォン・トリアーの問題作。1970年代のワシントン州。建築家を志す独身の技師ジャックは、ある出来事をきっかけに、アートを創作するかのように、殺人に没頭するようになる……。出演は「マイ・ライフ・メモリー」のマット・ディロン、「エレニの帰郷」のブルーノ・ガンツ、「ニンフォマニアック Vol.1」のユマ・サーマン。
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翻訳家
篠儀直子
ジャッキ(英語ではジャック)が壊れたところから始まるジャックの崩壊。実在の殺人鬼たちの多くは想像を絶する逸話を残しているのだから、主人公の支離滅裂さも驚くにはあたるまい。しかも何とこの映画は、ブルーノ・ガンツの役がツッコミとして機能しているため、意外にも、少なからぬ人たちがすんなり受け入れてくれそうなコメディとして成立している。作品全体が監督自身による懺悔の気持ちの表われなのだ、という解釈も出てきそう(そうするとまた議論がややこしくなるけど)。
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映画監督
内藤誠
「エレメント・オブ・クライム」についての拙稿を読み直し、トリアーのヨーロッパ的崩壊感覚の一貫性を再確認。マット・ディロン熱演のシリアル・キラーが殺人を犯すごとに強迫神経症が改善されて、病的に潔癖症だという設定も相変わらずだ。大鎌を使って草を刈る農夫たちを見つめる少年の目も独特で怖い。建築とグールドのピアノなど教養ゆたかな引用と偏執ぶりはゴダール「イメージの本」の対極にあるが、ガンツが登場し、ダンテ『神曲・地獄篇』で終わる最後は、あれでいいのか。
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ライター
平田裕介
題名がマザー・グースの積み上げ歌『ジャックの建てた家』から取られているので、殺す人数が多くなって手口も凄惨になると思っていたが死体を用いた最後の大仕事にはしてやられた。陰惨で悪趣味極まりない内容なのは確かだが、これはコメディなんだと頭を切り替えれば観られる。実際、強迫性障害ゆえに何度も現場に戻ってしまう場面を筆頭に笑える場面は少なくない。撲殺、絞殺、刺殺、銃殺と殺り方も多種多彩で、人体破損描写も素晴らしい仕上がり。ただし、繰り返し観たくはない作品。
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