幸福な囚人の映画専門家レビュー一覧
幸福な囚人
「自由を手にするその日まで」の天野友二朗による初の商業監督作品。無口で不器用な会社員・澤田は、不妊症をきっかけにうつ病になった妻を支えながら、自身も精神を病んでいく。そんななか、自分とは対照的に自信満々の男・岸本が海外企業から転職してくる。出演は、「地獄でなぜ悪い」の山中アラタ、「進撃の巨人」の児玉拓郎、「ジムノペディに乱れる」の小原徳子、「蠱毒 ミートボールマシン」の百合沙。
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映画評論家
川口敦子
デビュー作は70万円で撮ったそうだがこの第3作も潤沢な予算に恵まれてはいないのが否応なしに見て取れる。裸電球の下みたいな赤と緑の使い方。白い羽毛が舞う時空――チープを味方につけるかと期待させつつもうひとつキッチュに弾け切れないビジュアルが、組織の中の力関係の鬱憤を描く生々しさと微妙に乖離し続ける。そこが面白味かとも思うが、結局はあぶはちとらずのもどかしさを持て余し消化不良に陥っていく。D・フィンチャー的いやな世界が醍醐味に昇華されず恨めしい。
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編集者、ライター
佐野亨
生理的嫌悪感を誘発するオフィス描写と渇いたヴァイオレンスは天野友二朗監督の十八番で、ところどころハッとさせられる瞬間はある。しかし、そのインパクトが人物造形と作劇のステレオタイプをついぞ上回らない。インディーズで撮られた前二作にくらべると、作家個人の怨念の表出とジャンル映画的な処理に齟齬が生じており、描写の露悪性だけが前景化してしまった。ラース・フォン・トリアーを原体験にもつという天野監督。次にどんな手を繰り出してくるか注目したい。
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詩人、映画監督
福間健二
まだやるのかと言いたくなるような、トラウマを抱えた存在が囚人となるまでの物語。山中アラタの主人公は父親の虐待を受けて育ち、妻は不妊症からウツ。職場は陰湿。男女ともに怖いやつ、いやなやつが揃い、この男の精神を崩壊させていく。登場する全員が「現代社会」の犠牲者で、あやつられるように動くだけとも見えるが、被害妄想の幻影と現実の区別がつかない状態なのだ。個性といきおいをもつ天野監督、音楽とイメージショットによる濃い味つけで失うものにも気づいてほしい。
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