さくら(2020)の映画専門家レビュー一覧

さくら(2020)

直木賞作家・西加奈子の同名小説を「ストロベリーショートケイクス」の矢崎仁司が映画化。2年前、長男・一の死をきっかけにバラバラになってしまった長谷川家。年末、実家に向かった次男・薫は、家族とサクラと名付けられた犬が過ごした日々に思いを馳せる。出演は、「思い、思われ、ふり、ふられ」の北村匠海、「糸」の小松菜奈、「青くて痛くて脆い」の吉沢亮。
  • フリーライター

    須永貴子

    タイトルロールのサクラを演じる俳優犬のちえにパルム・ドッグを贈呈したい。カウリスマキ映画に出演した歴代の犬たちに通じる、飄々とした気品がある。リビングやダイニングで、家族とサクラが一緒に居るだけで、そのカットが特別なものになる。サクラに愛を注ぐ長谷川家の物語は、末娘の取り扱い方法でミスをした。理解不能な美しい獣として描けばいいのに、映画オリジナルの性的な描写で陳腐化してしまった。長谷川家がサクラに救われたように、この映画はちえに救われている。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    あの「風たちの午後」の矢崎仁司さんが健在であることを印象づけた映画だった。低迷の今の日本映画界にあって、この作品はかなりの称賛を以て迎え入れられるだろう。どこにでもありそうな家族のグラフィティ。「死」を扱っているが、その悲しみを転がすように「生」を力強く躍らせている。惜しいのはナレーションの多用。無用な説明、余計な予告が見る側の興を削いでしまう。ナレーションは魔物だ。いっそなかったら、どんな大傑作になったんだろうとさえ思った。

  • 映画評論家

    吉田広明

    犬の名が題名だからと言ってほのぼの映画を思い浮かべる観客に冷や水を浴びせかける。語り口はユーモラスながら、映画はごく仲の良い普通の家庭に潜在する危うさを明らかにしてゆく。とりわけ兄への近親相姦的、同級生との同性愛的感情を示す小松菜奈の小悪魔的存在は、異物として揺らぎをもたらす。しかし同級生が卒業式で同性愛者としての自身を高らかに肯定してみせるように、映画も「悪送球」をしてくる世界を肯定する。誰をも無条件に愛する犬は即ち神なのだと判明する。

1 - 3件表示/全3件