田園の守り人(もりびと)たちの映画専門家レビュー一覧

田園の守り人(もりびと)たち

「神々と男たち」のグザヴィエ・ボーヴォワによる人間ドラマ。第一次世界大戦下のフランス。2人の息子を戦場に送り出した農園の未亡人オルタンスと娘ソランジュは、若い働き手のフランシーヌを雇う。一時休暇で帰宅した次男はフランシーヌに惹かれるが……。「たかが世界の終わり」のナタリー・バイと、その娘で「ブルゴーニュで会いましょう」のローラ・スメットが母子役で共演している。
  • ライター

    石村加奈

    フランシーヌがオルタンスの家を初めて訪れた時、楽器の女王フルートの際立つ、美しい音楽が、シーンにそよ風を起こす。孤独なフランシーヌの人生は、歌と共にある。周囲の人々の不安を和らげたその歌声はやがて、いとしい息子に向けた子守歌ではなく、「愛なんてはかない」と、彼方を見つめて歌うようになる。息子を育てるためと想像しても、その姿は哀しい。オルタンスが田園で長男の訃報を受け取った時の、カメラワークと音楽も、母親の深い哀しみを切り取る。こちらは嵐のような。

  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    第一次世界大戦を農村の女性視点から観測する試みは、19世紀/20世紀の消長を現代的な距離で見据えるためだ。ナタリー・バイ演じる農園の毅然とした女主人が最後にしくじった際の呆然自失ぶりは素晴らしい。そして新人イリス・ブリーの存在は、「嵐の孤児」(21)のリリアン&ドロシー・ギッシュ姉妹の同時代人そのものだ。実はギッシュ姉妹に隠し三女がいて、フランスの田舎でしぶとく生き延び、百年後に解凍され、活き活きと動き回っているかのような錯覚を覚える。

  • 脚本家。51年生まれ

    北里宇一郎

    第一次大戦を背景にして反戦を謳わない。戦場よりも銃後。戦闘よりも労働。女たちの農作業画面が淡々と。そのミレー的映像に見惚れる。この家族を揺るがしたのがアメリカ兵と米国産トラクター。それよりも奉公女という流れ者が、この一家を支え、息づかせる。たとえシングルマザーになろうとも、きりりと生き抜くこのヒロイン像に、監督の限りない女性憧憬がうかがえて。幕切れ、芝居どころを排して、さらり歌で通したこと。それとルグランの音楽が絶妙のタイミングで入ること。感嘆。

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