東京干潟の映画専門家レビュー一覧
東京干潟
変わりゆく東京の現在を、人と自然から捉えたドキュメンタリー。都市の最下流、多摩川河口で十数匹の猫と共に暮らす一人の老人の波乱に満ちた人生をたどりながら、環境破壊や高齢化社会、格差問題、ペット遺棄など様々な現代日本の問題を浮かび上がらせてゆく。監督・製作・撮影・編集は「流 ながれ」の村上浩康。
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映画評論家
北川れい子
以前はキロ500円で売れたシジミの価格が、300円になったとシジミ獲りの男。多摩川の河口の干潟にうずくまるようにして素手でのシジミ獲り。しかも収穫量も減っている。川岸の繁みのバラック小屋で十数匹の猫と暮らす。老いたこの男の日々の営みが、変わりつつある周辺の風景と共に丁寧に映し出され、しかもどこか穏やか。男が語るここに至るまでの人生が、日本の戦後史、現代史と直結しているのも驚きで、更に男は未来をも静かに予測する。慎ましくも奥行のある秀作ドキュ。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
本作が捉えたシジミ漁ネコ飼い老人の腕の逞しさは、過去本欄で扱った映画群のヒーローたちに勝るものだった。彼らがやはりどこかしら格好つけた表面だけの見世物なのに比してぶっちぎりの渋いジジイを観た。ジムで鍛えたドウェイン・ジョンソンの筋肉よりも、ネコの餌と缶チューハイのために日がな泥をまさぐる河川敷掘っ立て小屋老人の日焼けした上腕二等筋と前腕のほうが強く美しい。無名の個人の生活として小さいものでありながら世界そのものでもあるような大きな映画。必見。
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映画評論家
松崎健夫
猛威をふるう自然。人間の営みなど気にもしないように、雨が降り、風が吹き、河川は氾濫する。だが同時に、人間の営みも自然に対して影響を与えている。だからだろうか、自然環境と人的開発との対比が望遠によってひとつのフレームに収まる映像は、儚くも美しいのだ。そして、世の中における“目に見える部分と見えない部分”、あるいは“覆い隠された部分と露わになる部分”とを干潟は暗喩しているようにも見える。村上浩康監督の『蟹の惑星』と合わせると更に多角的な視点を得る。
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