冬時間のパリの映画専門家レビュー一覧

冬時間のパリ

「パーソナル・ショッパー」のオリヴィエ・アサイヤス監督による大人のラブストーリー。紙からデジタルへ、テクノロジーの進化と共に変化を迫られるパリの出版業界を舞台に、編集者と女優、作家と政治家秘書という2組の夫婦の愛の行方を軽妙なタッチで映し出す。出演は「真実」のジュリエット・ビノシュ、「シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢」のギョーム・カネ、「セラヴィ!」のヴァンサン・マケーニュ。第31回(2018)東京国際映画祭にて「ノン・フィクション」のタイトルで上映。
  • 映画評論家

    小野寺系

    軽妙な会話シーンを中心に、不倫劇をコミカルに描きつつ、ギョーム・カネ演じる男のバブリーな時代錯誤感と、“電子書籍の台頭”という大波に飲み込まれゆく出版業界のシリアスな危機を重ね合わせていくという、アサイヤスの見事な手腕に感心する。彼が着想を得たという、エリック・ロメールの「木と市長と文化会館」もそうだが、このような大人のための知性ある映画を月に一度くらい見られたら、どれだけ人生が豊かになるだろうかと思える、いまとなっては貴重な一作だ。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    この種の会話劇は好み。加えて、その会話の主のキャラクターが作家に編集者に女優とくれば、親近感とリアルさから、思わず身を乗り出して聞き入ってしまう。話の起点になっている「電子書籍ブームによって紙の書物は絶滅する」に新味こそないが、個々人のキャラクターとストーリー展開とを自然に絡ませる手法に、アサイヤス監督の巧さが有りあり。二組の夫婦と彼らに関わる人物の群像劇に発展させ、世相、つまり変わりゆくものとそうでないものに対する二面性への考察が面白い。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    開始早々「ウッ、これロメール系の退屈おフランス映画だ……寝ちゃうかも」と思うも、それは杞憂で、二組の夫婦が織りなす小粋なラブストーリーを柄にもなく堪能した。紙から電子に移り変わる出版業界の悲喜こもごもは映画がフィルムからデジタルに移行する過渡期を経験した自分にとっても他人事ではなく一見凡庸なラストも変わるもの変わらないものというテーマに即した見事な締めだと感じたし、単純なカットバックに欠伸が出そうになる頃合いで的確に動くカメラも地味によかった。

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