キューブリックに愛された男の映画専門家レビュー一覧

キューブリックに愛された男

巨匠スタンリー・キューブリックと私設運転手との30年にも及ぶ主従関係を追ったドキュメンタリー。F1レーサーを目指していたエミリオ・ダレッサンドロは、運転技術を気に入られ、監督の屋敷に住まわされる。やがて、ふたりの間に奇妙な友情が芽生え始め……。監督は『Hate 20』のアレックス・インファセッリ。2016年ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞(イタリア・アカデミー賞)最優秀ドキュメンタリー賞受賞作。
  • 映画評論家

    小野寺系

    運転手兼雑用係だったエミリオが、長年の雇用関係のなかで信頼関係を築いたからこそ知り得るキューブリックの一面を垣間見ることのできる作品ではあるが、エミリオ自身は映画自体にほとんど興味がないので、彼が参加していたはずの製作の裏事情の部分については食い足りないし、能動的な部分がそれほど見られないため、エミリオの一代記としても薄味な印象が残ってしまった。映画づくり以外の部分にまで興味を持つような、キューブリックのディープなファンなら楽しめそうだが……。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    「時計じかけのオレンジ」でキャットレディを殺す場面の凶器になった男性性器のオブジェ。映画は、それをスタジオに運び、私設運転手になった男の思い出語り。一般人というのがポイントで、天才監督の人間性が横溢。人情劇の味わいがある。なかでも遺作「アイズ ワイド シャット」にまつわるエピソードには、二人の温情がたっぷり。「アイズ?」のカフェ・エミリオはキューブリックの感謝の気持ちだったのね。それにしても天才との30年間、作品を一本も見ていなかったとは、愉快。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    「時計じかけのオレンジ」の巨大ペニスの運搬をきっかけに30年にわたってキューブリックの世話係として仕えたこの男、映画監督としてのキューブリックには全く興味を持っておらず「尺が長いから」という理由で晩年まで作品を観ていなかったという話には驚くが、翻って考えると、だからこそ続いた関係なのかもしれない。彼を通してキューブリックの知られざる私生活と愛らしい横顔を覗けるのは楽しいし、名状しがたい不思議な絆で結ばれた二人を見ているとなんだか涙が止まらない。

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