ファンシーの映画専門家レビュー一覧

ファンシー

山本直樹の短編漫画を永瀬正敏と窪田正孝の共演で映画化。寂れた温泉街。“郵便屋”と呼ばれる彫師・鷹巣明と恋多き詩人“ペンギン”の前に、ペンギンの詩を愛する女性“月夜の星”が現れる。やがて、彼らの奇妙な三角関係とヤクザ同士の抗争が絡み合い……。「初恋」でも窪田と共演する小西桜子は、本作でデビュー。古厩智之や市川準の助監督を務めてきた廣田正興の初監督作品。
  • フリーライター

    須永貴子

    90年代の原作を、90年代風の語り口で、まったくアップデートせずに2020年に公開する意義を教えてほしい。原作では人間の世界に存在しているペンギンの詩人を、生身の人間が演じている。それは映画的な改良ではなく、ファンタジーという要素を便利使いする改悪だろう。エロスへの向き合い方も抽出方法も中途半端。アウトローのキャラクターと、山本直樹の看板を借りたお色気シーンで観客が満足すると思っているとしたら、それは映画をバカにしすぎでは?

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    毛色の変わった映画だ。彫師の郵便屋、ペンギンなりすましの詩人、その詩人の嫁になりに来る少女、この三人を軸に、変な人間たちが変なことをやらかしていく。彫師の勤める郵便局の局長からして変だ。副業として風俗嬢の斡旋をしている。舞台はとある地方の温泉町。変な人たちに裏社会の面々も加わって、陰惨な殺しが展開されていく。コーエン兄弟の映画を日本でやるとこんな風になるんだろうか。昨今の卒業式の来賓挨拶のような味のないメジャー系映画は、もう持て余し気味である。

  • 映画評論家

    吉田広明

    強面の郵便配達にして彫物師と、人間関係を恐れる潔癖症のナイーヴな詩人。どんな泥船に乗っているとしても、その泥船でどんな旅をするのかが大事だ、という父の遺言をモットーにする彫物師が周囲の人に影響を与えてゆく。サングラスと制服、ゴーグルとフードの類似が示すように、二人は実は同類=分身であり、彫物師もナイーヴな核を鎧で覆っている。これこそハードボイルドの神髄。決定的に変わったわけではない、が、何かは変わった、しかし日常は続く、程度の何気ない終わりもよい。

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