滑走路の映画専門家レビュー一覧

滑走路

32歳で命を絶った歌人・萩原慎一郎による歌集『滑走路』から着想を得て映画化。過重労働に苛まれる厚生労働省の若手官僚・鷹野は、非正規雇用が原因で自死したとされる人々のリストの中から、自分と同じ25歳で死亡した青年に関心を抱き、その理由を調べ始める。出演は「グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇」の水川あさみ、「見えない目撃者」の浅香航大。監督は「キュクロプス」の大庭功睦。
  • フリーライター

    須永貴子

    歌集の映画化だが、歌人も短歌も出てこない。歌人が歌に込めた希望と願いが、映画オリジナルのストーリーから放たれている。見事な換骨奪胎である。また、登場人物の名前の一部を黒塗りにするギミックにより、中学時代とおよそ22年後の現在時制からなる、人物相関図に対するこちらの推測を気持ちよく裏切ることに成功している。“夫が妻から言われたくない言葉ランキング”があるならば、間違いなく上位に食い込むあるセリフも鋭く、優等生映画からはみ出さんとする気概を感じるが。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    こういう映画を観るとなぜかほっとする。身内ファースト自己満ガラパゴス映画ばかりが横行するのにうんざりしていただけに、爽やかな風に身体を撫でられた気がした。テーマは普遍的で重い。が、見つめ続けなければいけないテーマである。いじめっ子トランプは小学生の心のまま大統領になった。いじめられっ子が死ぬほど苦しんでいるのをよそに、奴らは小躍りするように人を踏みつけて出世していく。ストーリーラインは鉄板だが、着実にその道を踏みしめている。ああ、良かった。

  • 映画評論家

    吉田広明

    三人主人公がいて、それぞれに時間が違っている、というのが結構後になるまで分からないという作劇は面白いが、浅香の時間と水川の時間の差があまり生きていない気はする。いじめに耐え、学校に生き続けることを選んだ少年がなぜ十数年後に自殺せねばならなかったのか(原作の歌人がそうらしいが)、昔いじめられてそのトラウマというのでは踏み込み不足、本来それを踏まえて浅香と水川がどう変わったのかまで描くべきで、それがないため何となく前向きな終わりも納得いかない。

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