銃2020の映画専門家レビュー一覧

銃2020

2018年に武正晴が監督、奥山和由がプロデューサーを務め映画化した中村文則の小説『銃』を、再びその3名が組み新たな視点から描いたサスペンス。東子はストーカーから逃げ雑居ビルに入ったところ、辺りが血に染まったトイレの洗面台の水の中から拳銃を拾う。「銃」に出演した日南響子が銃を拾い翻弄されていく主人公・東子を、銃が出会わせた謎めいた男を「Fukushima 50」の佐藤浩市が、東子を追い詰める刑事を「友だちのパパが好き」の吹越満が演じる。また、2018年の「銃」に出演した村上虹郎やリリー・フランキーなども出演。
  • 映画評論家

    川口敦子

    これもまた母娘の物語、その先に父の禍々しい残像も浮かび、日記をつけるヒロインについD・リンチ父娘を思いローラ・パーマー、ツイン・ピークスと連想するうちにヘンタイなストーカーが悪夢と現実の際に出没するこの閉ざされた世界の淡緑色の闇と点在する赤にふむふむと勝手な既視感を耕した。いっぽうで石井隆「甘い鞭」に連なる母娘のメロドラマの先の女の解放の物語をも夢見て、でもしかしそんな観客の勝手な妄想に映画が付いてきてくれないなんて理不尽な欲求不満が燻った。惜しい。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    「銃」の世界に取り憑かれた奥山和由、90年代の「RAMPO」で見せた、いささか空回りと思えるほどの執念は依然衰えていない。そうした先走った熱情に、きっちり「物語」を与えた武正晴演出、日南響子の身体性と呼応し、75分という短尺のなかで負の共鳴というべきドラマを一気に見せきる。もう一寸、石井隆作品のような妄執への踏み込みがあればと思った。佐藤浩市が「トカレフ」「GONIN」の頃の野放図な狂気をにじませていて嬉しくなる。銃サーガ、まだまだ続くか。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    どこまで行っても初心。作家中村文則の魅力のひとつはそれだ。ヒロイン東子の幼い日々の回想を見ながらそう思った。それは悪への初心でもある。日南響子演じる成長した東子が生きる世界は、蓄積された怯えからの悪夢であると同時に人が心の奥で映画に求める「解き放つ力」を顕現させる。拳銃を拾う。その拳銃が愛しい異性のようになる。銃とともに何をするか。何が現れるか。前作「銃」とはまったく異なる質を感じた。武監督、職人的効率から外れる撮り方がいままでになく刺激的。

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