河童の女の映画専門家レビュー一覧

河童の女

「カメラを止めるな!」などを輩出しているENBUゼミナール・シネマプロジェクト第9弾。川辺の民宿で生まれ、今もそこで働いている浩二。ある日、父が女と出ていき、一人で民宿を続けることに。すると、東京から家出してきた美穂が住み込みで働き始める。監督は、舞台や映像作品の脚本・演出を多数手掛け、本作が初の劇場公開作品となる辻野正樹。ワークショップオーディションで選ばれた青野竜平、郷田明希らに加え、「記憶にございません!」の近藤芳正が出演している。
  • 映画評論家

    川口敦子

    「トラウマを抱えながらも懸命に生きる人々の姿や、田舎が抱える問題を描き、クスッと笑えるエピソードと共に最後にはホッと温かい気持ちに包まれる作品」(プレス)といったあぶはちとらずの企画の安易さ、この映画に限らずほぼ一年、本欄で出会った日本映画の多くに見られる残念な傾向だと痛感した。笑いも涙もほのぼのもなんとも生煮えだ。と、またしてものうんざり感に苛まれていたら幕切れ部分だけアメリカン・ニューシネマ然と弾けたショット、全篇これでいって欲しかった。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    主演の青野竜平と郷田明希に愛嬌があり、観ているうちにこの二人の行く末に幸福の光がさしてほしいと願わずにいられなくなる。人間にさわることをおろそかにしたくないという辻野監督の視線のあたたかさ、素晴らしい。ただ、その人間の体温をじっくりと感じさせるために、一つひとつのセリフをもっとはっきり言わせない場面があってもよかったのではと思う。すべてがお膳立ての上にまとまりすぎ。スローモーションの使用も、なにかつくりものめいた手ざわりを映画に与えてしまう。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    観光地の民宿が舞台。東京からそんなに遠くなさそうだが、人物たちの意識では東京が遠くにある感じで、時代錯誤的。現代ダメ人間図鑑小物篇とでも言いたくなる、薄っぺらな人間たちをワキにおき、青野竜平と郷田明希の、真ん中にいる二人には、過去と病気、トラウマと罪を背負わせる。それで起こる緩めのサスペンスからドタバタに持ち込んで二人を逃げ切らせるまでというもの。脚本も、辻野監督。人物と画に息の吹き込み方が足りない。ラスト近くで青野が見せる足技はよかった。

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