すばらしき世界の映画専門家レビュー一覧
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フリーライター
須永貴子
「罪を犯した者の更生」という真摯なテーマの下、役所広司が狂気と愛嬌を自在に使い分けて演じるプリミティブな主人公の奮闘を、厳しさとユーモアをまぶして双六のように綴っていく。そして辿り着いたゴール(ラストシーン)をもって、映画は三上と我々が生きる「世界」について観客に問いかける。役者陣の演技もスタッフワークも上等で、日本映画として最高レベルにあることは間違いない。ただ、問題提起するための行儀の良さや賢さが、映画を体感することを邪魔している。
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脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授
山田耕大
西川美和という人は本当に映画に対して誠実である。伝えたいと思うものをとことん吟味し、もっとも適格だと思われる方法でそれを表現しているのだと思う。三年にわたる綿密なリサーチ、その成果は明らかだ。人物それぞれが、その人の生きてきた履歴から心の底の景色まで見えてくる。「カタギになると、空が大きくなるって言うわよ」というような姐さんの科白がある。その言葉のように、彼女の映画世界がまた広がった。西川美和は日本映画の財産である。
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映画評論家
吉田広明
原作は90年であって、ヤクザが反社と呼称され、差別と排除を受ける現在とは大分事情が違うはずだ。しかしその辺考慮されているようには見えない。原作の主人公はもっと頭がよく、共感できる要素の薄い男だったということだが、本作ではその複雑さは捨象され、直情径行なだけで実はいい奴という分かりやすい「キャラ」に変更されている。悪いことが重なって絶望したかと思えば、全てが好転して希望を持つという作劇による観客の心理の操作、こういうのを通俗というのではないか。
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