新しい街 ヴィル・ヌーブの映画専門家レビュー一覧

新しい街 ヴィル・ヌーブ

レイモンド・カーヴァーの小説『シェフの家』を1995年にカナダ・ケベック州で起きた住民独立運動に舞台を移し、元夫婦の物語を詩的に綴った長編アニメ。アルコール依存症の詩人ジョゼフは、別れた元妻のエマを思い出の地ヴィル・ヌーヴに呼び出すが……。監督は、本作が初めての長編アニメ作品となるフェリックス・デュフール=ラペリエール。声の出演は、「百合の伝説 シモンとヴァリエ」のロバート・ラロンド、「みなさん、さようなら」のジョアンヌ=マリー・トランブレ。ヴェネチア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門、アヌシー国際アニメーション映画祭コントルシャン部門ほか、国際映画祭に選出。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    ジョセフが海辺への道中、歯が一本抜ける。全篇が物質を口内で?み砕き消化するという感じではなく、ピノキオの鯨の胃袋の中にいるようで、虚実、昼夜、過去未来が溶解されていく。未来とは常に草臥れた疲労状態にあり、眠りに陥る経験ではないか。アニメーションとは意志の表現であり、その作画やテイストこそが物語を強く伝える。ダヴィンチは水の表現を生涯追求したが、揺らめく水があらゆる形態として登場。銅鐘ですら高温では液体となる。解答のない心地よさに酔いしれた。

  • フリーライター

    藤木TDC

    アニメーションで中年男の孤独と向かい合おうとは思いもよらず、意外性に高揚した。絵コンテがそのまま動き出したようなフリーハンドな画風は物語の私小説的世界観を鮮明にする目的で、初めから虚構性の強調と定型のタッチが埋め込まれた日本製アニメと本作では方法論に根本的な違いがある。R・カーヴァーの原作は村上春樹が翻訳、映画にも村上的な微温感が満ち、ほとんどアニメを見ない私でも引き込まれた。珍しさで得している部分もあるが、実写映画のように楽しめる。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    長篇アニメといっても、果たしてこの作品は本当に動いているといえるのだろうかと考えてしまった。観念的なセリフと墨汁で描かれたヘタウマなタッチは、相殺しあって曖昧になり頭に入ってこない。独立という主題にまつわる物語のはずなのに、観ている間、何が独立なのかの座標軸が見えないし、心を揺さぶるような取っ掛かりがないのだ。基本的に2020年現在において、様々なアニメが緻密さを極めようとする流れの中では、テーマに対しこの絵柄は従順でパンチが弱い。

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