マーティン・エデンの映画専門家レビュー一覧

マーティン・エデン

20世紀アメリカ文学の傑作といわれるジャック・ロンドンによる自伝的小説を、イタリアを舞台に蘇らせたヒューマンドラマ。ナポリの貧しい船乗りの青年マーティンは、ある日、ブルジョワ娘エレナに恋したことから文学の世界に目覚め、独学で作家を志すのだが……。主人公マーティンを演じる「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」などのルカ・マリネッリは、本作で2019年ヴェネツィア国際映画祭主演男優賞を受賞。監督は『失われた美』のピエトロ・マルチェッロ。
  • 映画評論家

    小野寺系

    伝記的な作品は星取りレビューでもよく扱っているが、本作は一つの到達点として多くの作り手に見習ってもらいたい。主人公の多面的魅力、実感こもる経済格差の表現、そして人間の存在に迫る奥行き。その充実した内容は、原作者ジャック・ロンドンによる、人生を一つの論としてまとめあげる剛腕があってこそ。映画で人生を見せるには、このような役割を担う者の存在が必要だと思い知らされる一作。主演俳優の燃えるような演技と、70年代を思わせるヴィンテージ風の映像が美しい。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    うまい! 誉めどころはいくつもある。貧しい漁師が、ブルジョワ階級の娘に恋をするロマンチックな出だしでは、ボードレールを知らない無教養さや食事の仕方や服装などのエピソードで、米国とは違うイタリアの階級社会をきちんと押さえている。さらにナポリの街並みや住人たちの生命力に溢れた暮らしぶりなどを捉えた画面には、伝統のネオレアリズモの雰囲気も。主演L・マリネッリの熱演に加え、彼を支えるマリア役のカルメン・ポメッラが◎。堂々たるイタリア映画に仕上がった。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    マーティン・エデンさんの生涯を描いた伝記映画と思いきや、さにあらず、エデンはあくまで架空の人物で、ジャック・ロンドンの自伝的小説をもとにピエトロ・マルチェッロ監督が舞台をアメリカからイタリアに置き換え大胆アレンジしたという、自分のような無教養人間には何のこっちゃな感じではあるのだが、まあ、この映画で描かれているのは教養を得ても幸せは得られないということであろうし、破滅型のエデンが妙に愛おしく、何より16㎜フィルムのテクスチャが素晴らしすぎる。

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