43年後のアイ・ラブ・ユーの映画専門家レビュー一覧

43年後のアイ・ラブ・ユー

ブルース・ダーン主演のロマンティックコメディ。妻と死別し、独り暮らしの老後を謳歌する元演劇評論家のクロードは、かつての恋人で舞台女優のリリィが、アルツハイマーで施設に入った事を知る。リリィとの再会を願ったクロードは、施設に潜り込むが……。共演は「エディット・ピアフ ~愛の讃歌~」のカロリーヌ・シロル、「チャーチル ノルマンディーの決断」のブライアン・コックス。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    アルツハイマーとシェイクスピア劇。そんな本作の二つのモチーフに対して個人的に距離を覚えたことを差し引いても、原案者と監督の手による脚本だけが作品を駆動させていることに居心地の悪さを感じた。画面からは舞台である「ロサンゼルスの郊外」らしさがちっとも伝わってこないし、主人公が乗る友人の車を外側からとらえたショットさえ一度もない。「アメリカの名優と映画を作る」のが監督の野心なのだろうが、アメリカで映画を撮ることにはもっと重みがあるはずだ。

  • ライター

    石村加奈

    甘いユリの香りに包まれて、ガーシュインの音色にのせて、リリィとダンスをするシーンや、43年後の別れのシーンより、年老いた二人が突然の雨にずぶ濡れになったベンチのシーンがみずみずしく印象的なのは、70歳のクロードの作為が及ばないせいだろうか。そういう意味では、クロードの孫娘タニア(セレナ・ケネディ)の存在が魅力的だった。少女の存在が、祖父の眩い記憶も、両親の愛の翳りも、そして自分の恋までをも(このしたたかさが若やいでいて素敵!)美しく浄化させていく。

  • 映像ディレクター/映画監督

    佐々木誠

    年老いた男が、アルツハイマーになった元恋人に自分との記憶を取り戻させるため自分もアルツハイマーのフリをする、というその設定からして“シェークスピア”。劇中、『ハムレット』と『冬物語』を巧みに引用することで、高齢者同士のシビアな恋愛ではなく、かつての恋人たちの記憶をめぐる再会として物語は展開され、ロマンティックにならざるを得ない。主人公が元演劇評論家で、なおかつブルース・ダーンが演じていることで、シニカルな要素も絶妙に加わり、甘すぎないのも良い。

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