天外者(てんがらもん)の映画専門家レビュー一覧

天外者(てんがらもん)

2020年に急逝した三浦春馬が、薩摩藩士・明治政府役人を経て商都・大阪の基礎を作った実業家・五代友厚を演じた歴史群像劇。攘夷か開国か、国が揺れ動く中、五代は世界に目を向け、誰もが夢見ることのできる国をつくるため坂本龍馬ら盟友たちと志を共にする。天外者(てんがらもん)とは、鹿児島の方言で“すごい才能の持ち主”のこと。五代の盟友・坂本龍馬を「ひるなかの流星」の三浦翔平が、後に三菱財閥を築く岩崎弥太郎をミュージシャンの西川貴教が、伊藤博文を「小さな恋のうた」の森永悠希が演じる。「利久にたずねよ」「海難1890」の田中光敏監督と脚本家・小松江里子が再び組み、近代日本の夜明けと大いなる目標に向かう偉人たちの青春を描く。
  • フリーライター

    須永貴子

    知られざる偉人にフォーカスを当てる大河もの。功績だけでなく、はるとのロマンス、龍馬との同志感、若き日の伊藤博文や岩崎弥太郎との友情などが駆け足で描かれていて、メリハリがない。「史実に基づいたフィクション」と断りを入れるなら、役者の熱量の高い芝居を活かすためにも、思い切って先のどれか一つを膨らませてもよかったのでは。船上で、龍馬が「日本の夜明けぜよ!」と叫ぶ日の出のシーンのあまりにも人工的な照明や、ひねりのない劇伴なども足を引っ張る。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    五代友厚という人物を広く知ってもらうというのが映画の意図なら、こういう作りになるのは当然だろう。薩摩の若き志士が、維新を経て経済日本の礎を築きあげていく。愛した娼妓に死なれ、盟友の坂本龍馬が殺され、世の嫌われ者となりながら、新しい日本を作るという志を決して棄てることはなかった。その生涯を余すところなく、まっすぐ描いている。文句をつける気にはならない。が、何か物足りない。五代が直面した一番大きな局面、そこに焦点を深く絞っていたらどうだったのか。

  • 映画評論家

    吉田広明

    相も変わらぬ明治維新神話。五代自身が傑物だったことに異論がないにしても、彼がいかなるヴィジョンを持ち、何を成し遂げたのかが具体性をもって描かれていないので、光も陰もある人間というよりは完全無欠な英雄にしか見えない。周囲の人物も何の衒いも疑いもなく、皆恥ずかしいほどに無邪気で多幸的。維新という日本人にとって幸福な成功体験(本当にそうなのか、列強に追いつけ追い越せの精神のその先に何があったのか)の記憶を自慰的にリピートしているだけの映画。

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