フィールズ・グッド・マンの映画専門家レビュー一覧

フィールズ・グッド・マン

作者の手を離れてネットミームとして利用され、人種差別のヘイトシンボルにまでなったキャラクター・カエルのペペの数奇な運命と社会の今現在を、アニメーションを織り交ぜながら描き出したドキュメンタリー。第36回サンダンス映画祭審査員特別賞新人賞受賞。作者マット・フューリーの友人であるアーサー・ジョーンズ監督が、元々はお気楽なキャラクターだったペペのイメージ奪還に乗り出したマットを助けるために本作を制作。Netflix『ボージャック・ホースマン』のリサ・ハナウォルトや漫画家のジョニー・ライアンなどといったクリエイターたちも登場し、フィクション=ミームが現実世界に影響を与える時代におけるクリエイターの苦しみと喜びにも触れる。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    トランプ政権時代に見かけたカエルのペペ。裏にはこんな物語があったとは。ドーキンスが唱えたミームとして説明されているが、SNS時代のイメージの誤用は、強度を持った像が合わせ鏡の中で歪められ、無限に増殖していくシミュラクル理論そのものだ。そして原形は終いには消失していってしまう。ぺぺが誤用されてしまった理由には、明確で迷いのない線描にもかかわらず、その表情や心情が読み取り難いことが挙げられるかも知れない。それはデジタル変換社会と無関係ではあるまい。

  • フリーライター

    藤木TDC

    無邪気な漫画キャラがネット上でアレンジされ拡散し政治化する過程を追う着眼点は斬新で刺激的だ。何も考えてなかったキャラ作者はある日突然、社会問題化した責任を負わされる。その深刻さはすべてのSNS使用者にとって他人事ではない。ただ、情報提示は細密だが、本質の「なぜ幼稚なアイコンが政治化するか」の分析はない。小気味良さを感じさせる結末も根本は悪い利用と表裏一体で、ポピュリズムがはまりやすい落とし穴だ。監督がそこに無自覚っぽい点に批評性の脆弱を感じた。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    自身の漫画がネットミームとしてオルタナ右翼に乱用される不本意さ。本作はネットで無断使用されるキャラを通し、最近の無慈悲なネット民の存在を再認識させる。ネットという集合体のうねりが炎上となって政治家の進退を決めたり、問題を起こした有名人の運命を握ったりする時代に、我々みんなが困惑している。その渦中を捉えた本作では、まだ的確な対処法も決まっていない社会の後手ぶりが浮き彫りとなる。極端な状況が続く現時点の記録として良いし、類似作品の呼び水になれば。

1 - 3件表示/全3件