約束の宇宙(そら)の映画専門家レビュー一覧

約束の宇宙(そら)

「博士と私の危険な関係」のアリス・ウィンクール監督が、仕事への情熱と娘への愛の間で葛藤する女性宇宙飛行士を描いた人間ドラマ。シングルマザーの宇宙飛行士サラは念願叶い長期ミッションに抜擢されるが、約1年もの間まだ幼い娘と離れることになり……。母親であるサラを「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」のエヴァ・グリーンが、8歳の娘ステラを約300人の中からオーディションで選ばれたゼリー・ブーラン・レメルが演じる。国内外で活動しアカデミー賞を獲得した「ラストエンペラー」を始め数々の映画音楽を手がけるミュージシャンの坂本龍一が本作の音楽を担当。欧州宇宙機関(ESA)全面協力の下、ドイツ、ロシア、カザフスタンの宇宙関連施設で撮影された。日本公開にあたり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が後援。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    ハリウッドのビッグバジェット作品で散々描かれてきた宇宙飛行士と残された家族の物語。そこで今さらフランスの監督がどんなオルタナティブを提示することができるのかと訝って臨んだが、これが見事な出来。メインテーマとして「女性の労働環境」という普遍的な問題が描かれているのだが、綺麗事だけではないヨーロッパ的個人主義に関する優れた省察にもなっている。90年代フレンチ・エレクトロを参照した、近年の坂本龍一らしからぬケレン味に溢れた若々しい劇伴も秀逸。

  • ライター

    石村加奈

    宇宙へ行かずとも出産後、仕事をする上で子供に我慢を強いた自覚があるので、ステラの眼差しが痛かった。子供の頃からの夢を?み、宇宙飛行士になれたのに、無邪気に英雄扱いされる父親とは対照的に、母親はなぜこんなにつらい思いをせねばならぬのか? そんな切実さも映画では描かれていて、好感を抱いたし、娘との約束を守ったこの母を、私は好きだと思った。エヴァ・グリーンは母親の葛藤を誠実に表現していた。ラスト、元夫の泣き顔は不要。母と娘の笑顔で終わる方が爽やかだ。

  • 映像ディレクター/映画監督

    佐々木誠

    娘と離れ訓練を受ける女性宇宙飛行士サラの日々が、ドキュメンタリーの素材をラフに繋ぐような構成で淡々と描かれる。様々な言語が入り乱れ、肉体と知能を常にフル回転して訓練に臨む宇宙飛行士のリアルな日常から、シングルマザーのサラの葛藤がジワリと伝わってくる。しかし、ロケット打ち上げ前夜の彼女の行動は不可解。宇宙飛行士である前に一人の母親だ、といういかにもなクライマックス。一気に冷めてしまったが、それだけ私がこの作品世界に入り込んでいたからかもしれない。

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