ファーザーの映画専門家レビュー一覧

ファーザー

世界30カ国以上で上演された舞台をアンソニー・ホプキンス&オリヴィア・コールマン共演で映画化。81歳のアンソニーはロンドンで独り暮らし。日々記憶が薄れゆくが娘のアンが手配する介護人を拒否していた。そんなある日、アンの夫だという見知らぬ男が現れる。戯曲を手がけたフロリアン・ゼレールによる長編初監督作。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    認知症を患った父親とその娘の関係を描いた作品――という概要しか知らない段階で初鑑賞したので驚嘆させられた。主人公の知覚を映像で再現することによって物語にサスペンスを生み出していく構造も斬新だが、その際に総動員される撮影と編集の技巧が光る。監督デビュー作でここまで精度の高い演出を実現させたフロリアン・ゼレールの手腕と、ゼレールに自由を与えた製作体制(フランスとイギリスの合作)の勝利。現在のハリウッドでは、こういうタイプの傑作は生まれない。

  • ライター

    石村加奈

    序盤、認知症を発症していた主人公役に、アンソニー・ホプキンスは威厳と活力に溢れ過ぎているように見えた。「象の記憶力」を持っていそうな強固な存在感を、ピーター・フランシスの精緻な美術がカバー。しかしラストシーンの、アンソニーのピュアな表情に驚かされた。そこから逆算すると、前半の強面は自分が壊れていく恐怖への強張りだったのかと。さすがホプキンス! ラストで隣に娘のアンがいたらなあとも少し。ホプキンスと渡り合うイモージェン・プーツの若さも好ましい。

  • 映像ディレクター/映画監督

    佐々木誠

    アンソニーは奇妙な日常に苛立っている。記憶と時間、現れる人物と場所が微妙にズレて繰り返される、まるでリンチ作品のようなビザールな感覚。そこに娘アンの視点も入り込む。幻想と現実の狭間、「フラット」での対話で構成される、認知症の父親とそれを介護する娘の世界。それを複雑に感じさせない繊細な演出と演技巧者たちによる最高水準の技術のやり取りは、感情も溢れている。観ている側は、肌感覚で自分ごととしてその世界を理解し、ラストは“アンソニー”の感情に同化する。

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