名もなき歌の映画専門家レビュー一覧

名もなき歌

アカデミー賞2020で国際映画賞・ペルー代表に選出された、実在の事件を基にした衝撃作。1988年、ペルー。貧しい生活を送る先住民の女性、20歳のオルヒナは、首都リマの小さなクリニックで無事女児を出産するが、院外へ閉め出され、赤子を何者かに奪われてしまう。オルヒナを演じるのは、本作が映画デビューとなるパメラ・メンドーサ。ペルー出身の女性監督、メリーナ・レオンによる初長編。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    エスニックマイノリティとセクシャルマイノリティが寄り添い交錯していく。貧困や民族差別など声を持たぬ者たちの叫びや心の声を詩情豊かに映し出す。確かに80年代のペルーの社会や政治の歪みや矛盾が生んだドラマが描かれているが、それ以上に乾いた風が吹き荒む台地と光と影がドラマを超えて訴えかけてくる。善悪を超えて、社会に存在する複雑な矛盾とカメラに収められた人物や風景のドキュメンタリー的な存在感に圧倒される。類を見ない映像センスを持つ新人女性監督の今後に期待。

  • フリーライター

    藤木TDC

    縁ボケ白黒スタンダードサイズの美しい映像でキュアロン「ROMA/ローマ」に通底する南米先住民の差別と苦難の現代史を描く。ペルー映画としては09年金熊賞「悲しみのミルク」の前史に接続される女性問題。アルベルト・フジモリが大統領時代、数十万の先住民女性に不妊手術を強制したように、母権?奪はペルーにおける歴史的で恒常的な政治の横暴だ。ならば監督は詩的な映像で口当たり良く見せることに終らず、もっと攻撃的に演出するべきだ。悲嘆的なラストは実に残念。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    組織的に行われている児童誘拐や人身売買にまつわる、実際の事件に着想を得たという点が昨今の映画らしい。好奇心を刺激する俗なテーマは新進の監督にふさわしいものだし、先住民の貧困も描くべき問題である。しかしこんなテーマを掲げながら、国際映画祭を意識したようなアート映画っぽさに終始し、核心に迫る気がないのは不誠実。同性愛への言及も同様だ。事実に肉薄しながらアートでもある映画は撮れるはずなのに、ワールドシネマにありそうな演出に甘んじるのは一種の冒?では。

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