スウィート・シングの映画専門家レビュー一覧

スウィート・シング

「イン・ザ・スープ」のアレクサンダー・ロックウェル監督による25年ぶりの日本劇場公開作。15歳の少女ビリーと弟ニコは、酒のトラブルが尽きない父アダムと暮らしている。ある日、父が強制的な入院措置となり、二人は家を出た母イヴのもとへ行くが……。主役の姉弟を監督の実の子どもたちが、母親を実際のパートナーであるカリン・パーソンズが演じている。父親役は、「ミナリ」のウィル・パットン。2020年ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門最優秀作品賞受賞。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    子どもは無力だ。大人の都合や暴力を受け入れるしかない。15歳の女の子が酔っ払ったお父さんに髪の毛を切られるシーンは心が痛んだ。追い詰められた子どもたちは、ようやく大人に反撃する。三人の逃避行。のびのび遊びまくる彼らの?剌とした表情。ずっと不機嫌だった女の子が、どんどん解放され可愛くなっていく。モノクロの映像の中に、時々カラーの幻想的な映像が現れる。その夢のような美しさに息を飲む。美しく残酷な、思春期のあのときにしかない輝きがそこにある。

  • 文筆家/女優

    睡蓮みどり

    ずっと探し求めていた映画と出会えた喜びをかみしめている。監督の実の子どもたちが主演なのだが、演技が本当に素晴らしい。ビリー役のラナ・ロックウェルの瞳が画面に映しだされる。それだけで何の説明もいらないくらいに、言葉にならなかった感情が表情から痛いほど伝わってきて、思わず涙ぐんだり微笑んだりしてしまう。“映画の力”というものをストレートに感じさせるエネルギーが炸裂している。ビリー・ホリデーの歌声も含め、身体中に余韻の残る傑作。人生の大切な1作。

  • 映画批評家、東京都立大助教

    須藤健太郎

    一瞬の生のきらめきを捉えて、順に繋ぎ合わせる。それで十分なのだ。本作を見ていると、ショットをショットとして見ることができるかを試されているようだ。映画は物語や教訓に従属しない。画面の中には象徴があるのではない。ショットは機能に還元されず、叙述に回収されない。青い海に明日の空が映っているから、もう年をとることがないように。温かい愛があれば、コートも手袋もいらないように。雪が降り風が吹いても、つららの形を見るだけでいい。いまは一度しかないのだから。

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