パーフェクト・ノーマル・ファミリーの映画専門家レビュー一覧

パーフェクト・ノーマル・ファミリー

ある日突然、両親から離婚する、その理由はパパが女性として生きたいからだ、と告げられた11歳のエマ。多感な少女は父の生き方を受けとめることができるのか……。マルー・ライマン監督が11歳のときに父親が女性になった実体験を基に脚本を書き、初監督を務めた。撮影当時10歳だったエマ役のカヤ・トフト・ローホルトは映画初出演ながら、ナチュラルで繊細な演技を披露。パパのトマス、のちにアウネーテ役を、「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」「ヒトラーの忘れもの」の実力派俳優ミケル・ボー・フルスゴーが演じた。トランスジェンダーの問題を当事者ではなく、その娘の視点で描いていく新鮮さが評価され、デンマーク・アカデミー賞で9部門にノミネート、メイクアップ賞と児童青少年映画賞を受賞した。
  • 映画評論家

    上島春彦

    このトランスジェンダーのお父さんを持った少女エマというのは、監督自身をモデルにしている。若き女性監督の初長篇作品。そういう次第で時代は90年代。懐かしいことに小型ビデオカメラが重要なアイテムとして現れる。ファースト・ショットは誕生直後の彼女を捉えた、その変形サイズ画面によるロングテイクであり、説話の現在は11歳時のエマ。なので、過去と現在のサイズの切り替わりが映画的には心地よいリズムを生む。ただし人物相互の葛藤というのが意外と薄味で、星は伸びず。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    変化を受け入れ難い娘の視点を通し、トランス女性である親が女性の格好をした「父親」として対象化されている。観客が主人公=娘の視線に同一化することを前提とすると、トランス差別言説がネット空間を中心に蔓延る現状の日本において、この二重性は極めて危うい。決してこのような現実の当事者や周囲の経験を否定しているのではなく、あくまで「表現」としての観点から、いかにパンフレットなど宣伝上でその危うさへの配慮がなされるかまでをも考慮に入れなければ評価はできない。(★なし)

  • 映画監督

    宮崎大祐

    90分の自伝であるがゆえのリアリズムなのか、やや性急で暴力的に思われる展開や描写も散見される。しかし、一貫して施される繊細かつ高度な演出の積み重ねによって映画としての強さを獲得している。特に、何者かになってしまう前の定まらない存在を体現したヒロイン、カヤ・トフト・ローホルトの素晴らしさは特筆すべきものだ。見られていた主体が見る主体になるまで。いつの日かパパでもママでもトマスでもアウネーテでもないそのままのあの人を誰もが愛することができたなら。

1 - 3件表示/全3件

今日は映画何の日?

注目記事