GAGARINE ガガーリンの映画専門家レビュー一覧

GAGARINE ガガーリン

パリ郊外に実在したガガーリン団地を舞台に少年の成長を描く青春ドラマ。老朽化とパリ五輪のために取り壊しが決まったガガーリン団地。ここで育った16歳のユーリは、帰らぬ母との思い出が詰まった団地を守るため、親友たちと一緒に取り壊し阻止に動き出す。出演は、スクリーンデビューとなる本作で第17回セビリヤ・ヨーロッパ映画祭ほか各国の映画祭の主演男優賞を受賞したアルセニ・バティリ、「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」のリナ・クードリ、「ノクトラマ/夜行少年たち」のジャミル・マクレイヴン。監督は、本作がデビュー作となるファニー・リアタールとジェレミー・トルイユ。第73回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション初監督作部門選出。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    場所がいい。巨大な都営住宅みたいなとこ。ボロくて、貧乏な奴らばっかいて、そこをウロつく主人公の男の子がまたボンヤリしていて好感が持てる。人がいなくなって、ひとりで秘密基地を作ってしまう男の子の孤独がヒシヒシと伝わってくる。ヒロインとの淡い恋愛もいい。取り残された者たちの最後の意地。忘れ去られていくことの侘しさ。端っこにいて、何とかその場所にしがみついて生きるしかない奴らの寂しさとかワクワクが突き刺さった。宇宙飛行士の孤独を思う。

  • 文筆家/女優

    唾蓮みどり

    16歳の少年ユーリの孤独と夢見る力がなんとも幻想的な映像のなかで説得力をもってこれでもかと見せつけてくる。ガガーリン団地の解体と、それに反対すべくひとり団地に残り続けようとする少年は滅びゆく場所に宇宙を作る。孤独がもたらすイマジネーションの広がりというものがいかに力強いかを教えられる。辛い時ほど人は空想の世界に行ってしまう。その世界は心地よいかもしれないが永遠ではない。どうか宇宙から無事に帰還しますようにと望みながら、最後まで目が離せなかった。

  • 映画批評家、東京都立大助教

    須藤健太郎

    一つの時代の終わりを描くにはどうすればいいか。崩壊の過程にはどう立ち会うべきか。本作の姿勢に不意を突かれた。時代の抱いたユートピアをユートピアとして、その終わりに現れたお伽噺として描き直すのだ。60年代に希望が託された郊外団地と宇宙開発は同じ夢物語の裏表でしかなかった。だから、解体を迎える団地を宇宙船に見立て、そこに束の間のユートピアを現出させる主人公はつまり時代精神のアレゴリーであり、彼の死と再生によって一つの時代の死と再生を示唆するわけだ。

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