島守の塔の映画専門家レビュー一覧
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脚本家、映画監督
井上淳一
この規模の話をちゃんとやろうとしたら、何十倍ものお金がかかるはず。その意味ではよく頑張っていると思う。ただ、例えばガマをスカスカに見せない工夫はなかったか。実際は人と血と汗と臭いに満ちていたはず。その欠如が再現ドラマ感を強くする。でも一番は人間だ。島田叡をはじめ登場人物がひとつの要素しか背負っていない。人間はもっと多面的なはず。現代に通じる視点も欲しかった。生き残った香川京子はどう生きてきたのか。改憲、防衛費増額の今の世の中をどう見ているのか。
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日本経済新聞編集委員
古賀重樹
民間人を総動員して沖縄戦を戦おうとする軍の要請を受け入れながら、行政官として住民の命を守ろうと努めた沖縄県の島田叡知事と荒井退造警察部長の苦悩と行動を描く。島田の功罪を劇映画の形で描くのは容易ではなかろうが、五十嵐匠監督は葛藤を抱えながらも周囲を気遣って明るく振る舞う島田像を通して表現しようとする。沖縄の住民の悲劇が十分に描けたとは言い切れないが、軍の狂気の下で職責を果たそうとする島田の心情は伝わる。そこに現代の官吏の苦境に通じる何かがある。
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映画評論家
服部香穂里
県民の生命を最優先に尽力するも、負の連鎖を止められぬ神戸出身の沖縄県知事の葛藤を、萩原聖人が硬軟巧みに妙演。片や、身内や同胞を次々亡くして軍部の理不尽にさらされ続ける中で、急遽赴任してきた型破りな上司のひととなりに間近でふれながら、偏った愛国心に固執する女性職員の人物像が、どうも腑に落ちない。その困惑を解消するがごとく、同役を担う香川京子が、知事の遺志を戦後何十年ものあいだ引き継ぐ使命や平和の重みを、渾身の名演で訴えかけるだけに、勿体なく思う。
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