猫と塩、または砂糖の映画専門家レビュー一覧
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脚本家、映画監督
井上淳一
常識のレールから自主的に降りた主人公は「僕の職業は猫」と猫として生きる。母もそれを受け入れ幸せそう。その共依存母子の家に共依存父娘が居候する。父は母のかつての恋人で、母の夫も同居している。この設定だけで唸る。しかも一筋縄ではいかない展開。普通は共依存からの卒業とやるのだろうが、そこには行かない強い意志。人と違って何が悪い。マイノリティ側に立ったフリで自分と違う立場を断罪する輩が多い今、この映画はそれを周到に避ける。あと30分短かったら傑作だった。
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日本経済新聞編集委員
古賀重樹
引きこもりのニートが主役ということでほとんど一軒家の中で展開する室内劇なのだが、狭い室内にもかかわらず俯瞰気味に広角レンズで撮影している。おのずと食卓も壁も床も人間も歪んで映る。その現実離れした空間の歪み方が、この奇妙なホームドラマの歪みに呼応しているようで面白い。現実のすぐ隣にある異世界なのだ。主人公も、両親も、闖入者である謎の父娘も、みなどこか現実離れした人物なのだけど、日常の裂け目にスーッと分け入ってくるようで、妙に生々しい。
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映画評論家
服部香穂里
ペットロスの母のため、自ら猫と称し依存症の父との仲介役もこなす息子と、形ばかりの心中を試みるも、現世への執着が捨てきれぬ元セレブ父娘。崩壊すれすれの両家が同じ屋根の下、いびつさを互いに引き立てつつ、心理戦も含む陣取りゲームに乗り出すにつれ、幸せの尺度や価値観が揺らぎ、各々の日常も混沌と化す。病のみでつながり救われもする夫婦の在りように胸がつまり、何色にも染まらぬ白装束娘が、他者に学びパワフルに再降臨を果たす嵐の予感に、爽快と不穏が相半ばする怪作。
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