天上の花の映画専門家レビュー一覧
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映画・音楽ジャーナリスト
宇野維正
昨今なら「有害な男らしさ」という安易な言葉で回収されてしまいそうな詩人=芸術家である主人公の愚かさを、主人公をことさら自罰的に描くのではなく、その妻にもことさら寄り添うことなく、腰を据えてじっくりと慎重に浮き上がらせていく。「貧すれば鈍する」のは男も女も同じという意味では、現代的なテーマも内包していると言えるのか。個人的にはこの種の悲痛さを映画に求める嗜好はないのだが、東出昌大が替えの効かない優れた役者であることを再認識した。
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映画評論家
北川れい子
詩人・三好達治が執着し渇望した慶子(萩原朔太郎の妹)のキャラクターが小気味いい。演じる入山法子のいかにも血の気が薄そうな華奢な容貌が役にピッタリなのだ。そんな慶子に振り回される男のエゴと無様さを描いたナマ臭系のメロドラマで、朔太郎をはじめ、当時の文壇のお歴々がチラチラ登場するのも興味深い。戦時下という時代背景も。ただ大人の男と女の関係は、文壇人であろうがなかろうが、所詮お好きにどうぞとしか言いようがない。「あちらにいる鬼」よりは素直に観たが。
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映画文筆系フリーライター。退役映写技師
千浦僚
私が映画の良し悪しを測る基準のひとつは人間の本性に迫っているか、それを表しているかだが、本作はそれがある。わざわざこう書くのは本作への不買運動めいた意見表明を目にして、それに強い違和感があるため。それが東出昌大氏のプライベートへの批判と融合するのもいやな感じがある。私は浮気、暴力沙汰、シャブ、やくざとゴルフなどをする役者こそ人間について何かを見せてくれるのではと期待する。自分のなかの三好達治に対する戒めとなる、観甲斐のある良い映画。
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