ぬいぐるみとしゃべる人はやさしいの映画専門家レビュー一覧

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい

「眠る虫」でMOOSIC LAB 2019長編部門グランプリを獲得した金子由里奈監督が、ジェンダー問題や同調圧力に悩む若者を紡いだ大前粟生の同名小説を映画化。”男らしさ”“女らしさ”のノリが苦手な大学生・七森は、ぬいぐるみと話すぬいぐるみサークルに入る。繊細な大学生・七森を「町田くんの世界」の細田佳央太が演じるほか、「いとみち」で2021年第34回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞新人賞を受賞した駒井蓮、「麻希のいる世界」の新谷ゆづみら、フレッシュな顔ぶれが揃う。2023年第18回大阪アジアン映画祭コンペティション部門上映作品。2023年4月7日より京都先行公開。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    喋ることで相手を傷つけたくない。だからぬいぐるみと話すと主人公は語る。何かを発することは人を傷つけることだと覚悟して本欄を書いている身としては、それって自分が傷つきたくないだけじゃんと思わなくもない。しかしそんな僕にもこの映画は響く。傷つきたくないと思いながらも登場人物は傷つく。「健全に病んでいる」(?金子修介)ではなく、これこそ病んだ現代の健全なんじゃないか。ラスト、ぬいぐるみと喋らないと言う新谷ゆづみに震えた。冷めた客観視。したたかで侮れない。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    題名通りの映画で、登場人物はみな傷つきやすく、ぬいぐるみとしゃべることでなんとか生きている。それを極端なキャラクターではなく、どこにでもいるような自然な人物として描き出したところに好感をもった。男らしさや女らしさという観念になじめない七森にしても、七森とは仲良くなれたのに引きこもってしまう麦戸にしても。彼と彼女にのしかかる社会的抑圧を声高に告発するのでなく、無言でそっと寄り添う。そういう表現に映画は向いていることをこの監督は知っている。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    ひとは存在する限り、無意識に誰かを傷つけているかもしれない危険性と、無関係ではいられない。そんな残酷な宿命に気づいてしまった生きづらさが、ますます助長されたかたちで蔓延しているようにも思える今、個性豊かなぬいぐるみが、他者との衝突を恐れるあまり対話を諦める“やさしい”面々の罪悪感の受け皿や、彼らの弱さを映す鏡の役割も担う。両極のサークルを掛け持ちし、歪な世の中を達観しながらサバイブする白城が、何気なくも地に足ついた寓話へとリアルに引き締める。

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