メグレと若い女の死の映画専門家レビュー一覧
メグレと若い女の死
「仕立て屋の恋」のパトリス・ルコントが同作の原作者ジョルジュ・シムノンのミステリー小説を映画化。1953年、ドレスを着た身元不明の若い女性の刺殺体が発見される。所持品も目撃者もない。事件を担当するメグレ警視は、僅かな手がかりをもとに捜査にのめり込んでいく。出演は、「シラノ・ド・ベルジュラック」のジェラール・ドパルデュー、ジャド・ラベスト、「タイピスト!」のメラニー・ベルニエ、「バルバラ セーヌの黒いバラ」のオーロール・クレマン、「ともしび」のアンドレ・ウィルム。
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米文学・文化研究
冨塚亮平
とにかく画面も物語もやたらと暗い。哀愁と陰影、仄暗い欲望に満ちた、カタルシスとは無縁のいかにも精神分析と相性の良さそうな探偵物語は、これぞフランスの文化と思わされる要素の多くを体現しているようで大変好ましい。全身に疲労や倦怠の雰囲気を滲ませながら捜査に臨むジェラール・ドパルデューも見事なハマり役。「コナン」のような展開を期待する日本の観客の一部は肩透かしを喰らわされるかもしれないが、酸いも甘いも?み分けた大人の世界の渋さにぜひ浸ってほしい。
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日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰
降矢聡
ジェラール・ドパルデュー演じるメグレ警視のシルエットが愛らしくてすこぶる良い。しかし若い女性の不審の死を追うことで見えてくる、華やかなパリの裏側や上流階級の世界の闇といった真相に関しては、あまり深みを感じられなかった。破綻もなく、深みにハマりすぎることもなく淡々と進行していくさまは、探偵ものの映画としてはウェルメイドな作品とも言えるかもしれないが、それにしても物語的な起伏も控えめで、個人的にはあまり印象の残らない作品となってしまった。
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文筆業
八幡橙
全篇にたゆたう儚げでクラシカルなムード、ドパルデュー演じるメグレ警視が醸す哀愁、彼をとりまく、詳細は語られぬままの実の娘を含む3人の若い女たち――。犯人は誰か、という謎よりも、事件に至る過程を、浮上する人物と人物を丁寧に線で結びながら紐解いてゆく王道古典ミステリ。本来の持ち味を生かしつつ、官能的ともいえる映像と抑制の効いた語り口で原作を巧みに再構築したルコントの手腕に唸る。ベティを演じるジャド・ラベストの、ジャンヌ・モローを思わせる風貌もいい。
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