エンパイア・オブ・ライトの映画専門家レビュー一覧

エンパイア・オブ・ライト

「アメリカン・ビューティ」「1917 命をかけた伝令」のサム・メンデスが、1980年代初頭のイギリスのカルチャーに敬愛をこめて贈るヒューマン・ラブストーリー。海辺の町にある映画館・エンパイア劇場で長年働いてきたヒラリーは、辛い過去によって心に闇を抱えながらも、ひとりの青年スティーヴンと出逢ったことをきっかけに、生きる希望を見出していく。主人公のヒラリーを「女王陛下のお気に入り」でアカデミー賞主演女優賞を受賞したオリヴィア・コールマン、スティーヴンをTVシリーズ『スモール・アックス』(20)の新鋭マイケル・ウォードが演じた。
  • 映画評論家

    上島春彦

    エンパイアってつまり帝国劇場だね。海辺のリゾート地に建つ名門映画館が舞台で「炎のランナー」のガラ・プレミア誘致という話題が楽しく、最後に「チャンス」の名シーンが引用されるのも嬉しい。同時代感覚が触発される映画愛映画は珍しい。死後、美化されることが多くなった英国サッチャー首相、およびその政権への異議申し立てという隠し味も効果的だ。性奴隷として扱われている女性の復讐譚は必ずしも小気味いいわけじゃないのだがその辺りの苦さがいかにも英国映画の作風だ。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    ハリウッドで映画についての映画が続くなか、前号で取り上げたチャゼルの「バビロン」とはある意味で対極にあるような作品。眠っていた映画館の灯りがともってゆく過程を息の長いショットで見せるオープニングシーン、そしてそれに続くオリヴィア・コールマンがひとり自宅で過ごすシーンの導入部から一気に引き込まれる。暗闇と光が最も重要な主題にあって、映画館はむろんそれ以外の照明演出も凝っている。これはメンデスの傑作「アメリカン・ビューティー」にも匹敵する美しさだ。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    いまだに映画的な演出を用いているところをほとんど見たことがないサム・メンデスにこんな隠れた映画愛があったとは知らなかった。前回取り上げたデイミアン・チャゼルのナルシシスティックな映画愛と比べるとメンデスのそれは随分とつつましく、悪い印象はない。主演のオリヴィア・コールマンはじめ俳優たちも頑張っている。ただ映画の中で映画の圧倒的な力を見せることが出来ていないのに映画自体を映画のもっている力になんとなく委ねてしまっている点は同類と言わざるを得ない。

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