幻滅の映画専門家レビュー一覧

幻滅

フランスを代表する文豪、オノレ・ド・バルザックの『人間喜劇』の一編、「幻滅-メディア戦記」を映画化。19世紀前半、詩人として成功を夢見る田舎の純朴な青年が、憧れのパリに出て新聞記者となるが、次第に欲と虚飾と快楽にまみれていく姿を描く社会派人間ドラマ。およそ200年前の物語とは思えないほど、フェイクニュースやステルスマーケティングが蔓延するマスメディアとそれを取り巻く社会は、現代と酷似している。主演には「Summer of 85」のバンジャマン・ヴォワザン、先輩格の新聞記者に「アマンダと僕」のヴァンサン・ラコスト、芸術を信じる作家役にグザヴィエ・ドラン監督、出版業界の大物にジェラール・ドパルデューなど、フランス映画界の新旧実力派がそろった。セザール賞にて作品賞、最優秀助演男優賞、有望新人男優賞を含む最多7冠を獲得。監督は「偉大なるマルグリット」のグザヴィエ・ジャノリ。
  • 映画評論家

    上島春彦

    話を知らずに見るほうがいい。余計なことは書かない。しかし参考図書として?實重?『帝国の陰謀』を挙げておく。印刷技術の発展のおかげで、出版メディアが突然活気を帯びたフランス史のある時代をまさに「画面」で見せ、楽しませてくれる逸品。原作は群像劇だが、映画のポイントは才能ある三人の作家志望者。挫折し記者になった者。やがて小説家としてこの物語を世に出す者(ナレーション担当)。主人公はどっちつかず。彼が筆名にこだわらなかったらどうなったのか、と考えてしまう。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    まったく時代は異なりながらもバルザック流の聖と俗が入り混じる、きわめてアクチュアリティのある作品に仕上がっている。グザヴィエ・ドランは登場人物であると同時に語り手でもあり、彼の目線を通して物語が進行してゆく。ドランは映画作家のかたわら俳優としての活動でもゲイ男性の役が大半を占めているが、そうして構築されたスターペルソナが本作のホモエロティックなムードを掻き立てるのに一役買っている。上品でそつがない逸品であるものの、綺麗におさまりすぎた印象も。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    文豪バルザックの最高傑作ともいわれる『幻滅』の映画化。バルザックの名の下に集まったであろう著名俳優陣はゴージャスで、制作の技術的にもフランス映画史の豊かさを見せつけるような内容となっている。なかでもC・ボーカルヌによる撮影は実に美しく、フレームの四隅に張り出したビネットが我々の禁じられた欲望を引き出しているようだ。またこうしたフランス文化界隈の貴族的なノリが当時から今日に至るまで数百年間固定されたままだということを再認する良い機会にもなった。

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