TAR ターの映画専門家レビュー一覧

TAR ター

ケイト・ブランシェットが、ヴェネチア国際映画祭女優賞に輝いたドラマ。世界最高峰のオーケストラ、ベルリン・フィルで女性初の首席指揮者に就任したリディア・ター。だが、その地位が生むプレッシャーと創作の苦しみが、次第に彼女を追い詰めていく……。共演は「女神の見えざる手」のマーク・ストロング、「男と女、モントーク岬で」のニーナ・ホス。監督は「イン・ザ・ベッドルーム」のトッド・フィールド。
  • 映画評論家

    上島春彦

    画面に描かれる事実と、描かれることのない背後の事実とのアンバランスが緊張感を醸し出す。例えば、名指揮者レナード・バーンスタインの晩年の弟子という主人公の履歴が果たして真実か、また彼女のターという名前の件、周囲の三人の女性との確執。いずれも物語の根幹に関わる謎が含まれる。世界(クラシック音楽業界)を徹底的に管理、抑圧して自分がのし上がる情熱に憑かれた彼女を癒すのがベイシー&ヘフティのジャズ・ナンバー〈リル・ダーリン〉だったりする面白さも格別だ。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    星1にも星5にもどちらにもなりうる引き裂かれを持つ映画。序盤、典型的なレズビアンと公言する主人公とパンセクシュアルを自認する学生が議論を交わす場面がまずスリリングで一気に引き込まれ、映画的な愉悦に絆されてしまう。しかしそうした現代的なイシューを鏤つつもその実、この映画は現実など無視した荒唐無稽さを抱え込む。ゆえにというべきか「地獄の黙示録」に言及する本作が、同作の批判としてあったアジアの他者化を反復しているのは何の冗談なのか戸惑う。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    「シンプルなカット割りと細やかな演出で精確に物語ることができ、何よりも人が撮れる」というのが本作の監督、トッド・フィールドの印象である。となるとそのフィールドがケイト・ブランシェットをどう撮るのかという点に注目していたが、本作は別の監督が撮ったのではないかというほど露骨な演出やシネフィルへの目配せがちりばめられた作品であった。その挑戦と熱意自体は否定しない。ただ終盤の展開にTARが演じていたモノと制作者の無意識での同一化を察知したのも事実だ。

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