春に散るの映画専門家レビュー一覧

春に散る

沢木耕太郎による同名小説を原作に「ラーゲリより愛を込めて」の瀬々敬久が映画化。40年振りに帰国した元ボクサーの広岡仁一と、不公平な判定負けで心が折れていたボクサー・黒木翔吾。偶然飲み屋で出会ったふたりは、やがて世界チャンピオンを共に目指すことになる。出演は「Fukushima 50」の佐藤浩市、「流浪の月」の横浜流星、「キングダム」シリーズの橋本環奈。
  • 文筆家

    和泉萌香

    広大な空や川、長く伸びる道、舞い散る桜がゆったりと捉えられ、無常の世でそれぞれの葛藤を抱え生きる人間の営みを描き出す。「ファイト・クラブ」のエンジェル・フェイスがちょっぴり粗暴さを身につけて、スカジャン羽織って再登場、のような生気眩しい横浜流星! 擬似的父と息子、ぶつかり合いながら旅を始める二人のヒーロー。生の実感と「守りたい」の理由に拳は必要なものかという疑問が少々拭いきれず、<男たちの>映画という印象が。敗者となった、その彼の顔にはぐっとくる。

  • フランス文学者

    谷昌親

    試合のシーン、とくに世界タイトルマッチのシーンはすばらしい。これまでのボクシング映画を凌駕する激しさと、それゆえの闘う者どうしの交流を感じさせる。映画館に足を運んで観る価値はまちがいなくある。ただ、試合のシーンの密度が濃い分、人間ドラマの部分が見劣りしてしまうのは否めない。もちろん、俳優陣は熱演し、瀬々監督もいつも以上に被写体寄りの構図で撮影しているのだが……。主人公・広岡の姪であり、彼の過去につながる佳菜子をもう少し活かせていたらと思ってしまう。

  • 映画評論家

    吉田広明

    肩に載った花びらに始まり、夏秋冬とテロップが出るので、タイトルの春に佐藤が死ぬのだろうと予測はつく。もう後がないと感じる「二」人の主人公の同型性と対称性、考えるボクシングとやられても立ち上がるボクシングの対比など、形式上きれいに構築されているし、老いを演じた佐藤も素晴らしいのだが、しかしそんな形式を突き破る映画的瞬間が現れるのかというとそうでもないのが残念だ。試合のクライマックスでのわざとらしいスローも、今どきこんなのを使うのかとびっくりした。

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