君たちはどう生きるかの映画専門家レビュー一覧

君たちはどう生きるか

宮崎駿監督が少年時代に母から手渡された同名小説『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著)にインスパイアされ、オリジナルの物語に自身の少年時代を重ねた自伝的ファンタジー・アニメーション。舞台は宮崎監督の記憶の中に残る、かつての日本。母を戦火で失った11歳の少年・眞人(マヒト)は、父・勝一とともに東京を離れ、新たな母・夏子とともに庭園家屋で暮らし始める。眞人はそこでサギ男や屋敷に住む7人の老婆たち、漁師の女性・キリコなど魅力的なキャラクターにいざなわれ、生と死が混然となった不思議な世界へと分け入っていく。宮崎駿監督が2013年の「風立ちぬ」公開後に行った引退宣言を撤回し、2016年から7年の歳月を経て製作、ついに2023年に劇場公開された。公開前には、音楽は久石譲であること以外は、内容もキャスト・スタッフも明かされない宣伝戦略がとられた。日本公開から間をおかず世界各国で公開、2024年1月、第81回ゴールデングローブ賞の最優秀長編アニメーション映画賞受賞。さらに2024年3月、第96回アカデミー賞長編アニメ映画賞受賞。ジブリ作品のオスカー獲得は「千と千尋の神隠し」以来、21年ぶり2度目となった。
  • ライター、編集

    岡本敦史

    自分がこんな人生を歩んできたのは、子どもの頃にこんな夢を見たせいかもしれない……という宮﨑駿監督の「約束の夢」を眺めているかのような不思議な映画体験。非常に面白く観たが、それは「おこぼれ」のようなものだ。題名どおり、これは子どもたちに向けた最後のメッセージであって、大人のことなど眼中にないと思う。夢、または異世界の情景が大部分を占める映画のなかで、最も重い現実……病院火災の場面をとてつもない超現実的映像美で描く演出と作画にも圧倒された。

  • 映画評論家

    北川れい子

    隅々まで描き込まれたカラフル画面に、擬人化されたいきものたち。戦時下、母を亡くした少年が疎開先で体験する謎めいた冒険は、まさに宮﨑アニメの真骨頂。が、都会っ子の少年が地元の学校に通わなくなる理由や、軍事産業に関わっている父親のエピソードが気になってどうしてもファンタジーに没入できない。勤労奉仕に駆り出される地元の子どもたちや、出征兵を見送る人々の軽い扱い。戦時下をただの背景にしての異世界での冒険が、都会っ子の特権的な逃避のような印象もする。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    宮﨑作品で初めて老いを感じる。母の実家へ疎開し、広大な屋敷で不可思議な体験をする前半は細部の充実ぶりに瞠目するが、異世界へ向かうことは早々に察しがつくものの停滞。行き当たりばったりな構成は、近作では珍しくないものの本作は極まった感。異世界に入ってからは総集篇の趣で、自己模倣が繰り返される。終盤では東映動画時代へと回帰したかのように、「長靴をはいた猫」「どうぶつ宝島」を想起させ、自分の興味関心の趣くままに好き放題に作るための自主制作かとも思う。

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